闇より来たりし者

平坂 静音

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呪術師 二

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「え? そうなんですか?」
 話の成り行きにまた私はびっくりした。
「ご存知ないでしょうが、かつて戦時中に、マレーシア王家の少年が、日本に留学していたんです」
 アレックスの言葉に私は目をぱちくりさせた。まったく知らなかった。
「戦時中、アジア諸国を植民地にしていた日本は、その国との関係をつよめるため、名家の子弟を日本に留学させ、日本語や日本の文化を教えこんだのです。おもてむきは、日本と殖民地諸国の絆を深めるためですが、じつを言うと、人質のような意味合いもあったのでしょう。日本に連れてこられて、日本の学校で学び、そして広島に原子爆弾が投下され、その少年は被爆してしまった……。私がしらべた話では、彼は友人を救うためにかなり無理をしたそうです。それでもすぐに亡くなったわけではなく、その後戦争が終わって祖国に帰れることになっていたのですが、被爆によるダメージで、病院で亡くなったと聞きました」
 そんなことがあったなんて……。
 恥ずかしながら、本当に何も知らなかった。
「気の毒に……」
 王家の少年、とういことは、王子様か、日本でいうなら宮家の若様みたいなもの? そんな身分の高い人が祖国の家族や友達から引きはなされて遠い日本につれて来られて、日本の戦争にまきこまれる形で亡くなったなんて。しかも、私は今の今までそのことを全く知らなかった。
 日本の華族のお嬢様が、中国の皇族や朝鮮の王族と結婚して向こうへ行って、苦労されたとかいう話はテレビや雑誌で見たり読んだりしたことがあったけれど、マレーシアの王子様に関しては、本当に聞いたことがない。やっぱりマレーシアは日本から見たらかなり遠い国なのだ。 
「そして、私の祖父は、当時、マレーシアから殿下のお見舞いに派遣された数人のうちの一人に入っていたのです。恐らくはマレーシアの殿下の身内の方に依頼されて送られたのでしょうが、結局役には立たなかった」
「それって……つまり、呪術師に病気が治せると思ったんでしょうか?」
 私はけっして馬鹿にしているように見られないよう表情をひきしめて、訊いてみた。
 アレックスは微笑みながら答えた。
「昔は、ボモーの力を信じている人はたくさんいたんです。それに、現在の日本でも、家族が深刻な病気になったら、神社とかお寺にお参りに行く人だっているでしょう?」
 それは確かにいる。
 最近ではむしろサイキックなことが見直されて、スピリチュアルなことやヒーリングなんかもけっこう流行っているっていうから、半世紀以上もむかしの東南アジアの人が、病気の王子様を治すために呪術師をよこしたとしても不思議じゃない。
「そして、祖父は殿下の病気治癒の祈祷ちゅうに亡くなったのです」
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