闇より来たりし者

平坂 静音

文字の大きさ
94 / 141

再生 六

しおりを挟む
 眉をしかめている私を、トヨールたちはさもおもしろそうに嘲笑している。
 人の秘密を嗅ぎまわってすべて知りつくしているこの黒い妖精たちが、私はますます怖くなっていく。私は怯えた顔になっていたのだろう。
(ここって、いい所のお嬢様たちの学校なのに、やっていることはマレーの低級娼婦なみだね)
 大人ぶって男の子のトヨールはそんなことを言う。
(あの頃は、カフェで日本兵に媚びを売る女たちもよく見たよ)
 このトヨールたちは、考えてみれば私よりもずっと長く生きていたのだということを私は今更ながらに思い出した。私の知らない遠い国や、はるかな過去のことも見聞きしてきたのだ。
(ふふふ、イサムだった? あんたのお祖父さんか、ひいお祖父さん。イサムもよくそんなカフェでマレー女と遊んでいたのよ)
(そうそう。そこで珠鳳の主人とも知り合ったんだから)
「そ、そんな事まで見てきたの……?」
 驚きあきれてつぶやく私を、二人は得意そうに見下ろして――いるように見える。 
(正確に言うと、見ていたというよりも、心のなかを読みとったのさ。当人の記憶が絵のように見えてくるんだ)
(当人の過去の記憶を読めるから、過去の出来事でも自由に知ることができるのよ。私たちは実体があるようでないから、どこへでも行けるし。それに姿を見えないようにすることもできるから、周囲の人間はだれも私たちにまったく気づかないの。霊感のつよい人間なら、霞か霧がチラッと見えるぐらいかしらね)
(神出鬼没なんだよね)
 語彙もたいしたものだ。
(でもね……実体があるようでないっていうのも、味気ないものなのよ。もうそろそろ、生身の身体が欲しいの)
(そう、僕たちは身体が欲しいんだ)
 じわじわと、二人がよってくる。
「な、何をする気なの?」
(ねぇ……私に身体をくれない?)
 全身が硬直してしまった。
 のっぺらぼうみたいに目鼻の無い、ぼんやりと光をはなつ顔がせまってくる。
(私たちね、ここに来たばかりのときは……、あんたが引き出しから開けて出してくれたときよ、本当にひからびてもう二度と動くことはできないかもという具合だったの。最後の力で美菜に働きかけて血を得て、それから麻衣からたくさんの血をもらって、復活することが出来たのよ。あんなふうに命が縮んでひからびていくような体験は、もう二度としたくないの)
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...