闇より来たりし者

平坂 静音

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再生 六

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 眉をしかめている私を、トヨールたちはさもおもしろそうに嘲笑している。
 人の秘密を嗅ぎまわってすべて知りつくしているこの黒い妖精たちが、私はますます怖くなっていく。私は怯えた顔になっていたのだろう。
(ここって、いい所のお嬢様たちの学校なのに、やっていることはマレーの低級娼婦なみだね)
 大人ぶって男の子のトヨールはそんなことを言う。
(あの頃は、カフェで日本兵に媚びを売る女たちもよく見たよ)
 このトヨールたちは、考えてみれば私よりもずっと長く生きていたのだということを私は今更ながらに思い出した。私の知らない遠い国や、はるかな過去のことも見聞きしてきたのだ。
(ふふふ、イサムだった? あんたのお祖父さんか、ひいお祖父さん。イサムもよくそんなカフェでマレー女と遊んでいたのよ)
(そうそう。そこで珠鳳の主人とも知り合ったんだから)
「そ、そんな事まで見てきたの……?」
 驚きあきれてつぶやく私を、二人は得意そうに見下ろして――いるように見える。 
(正確に言うと、見ていたというよりも、心のなかを読みとったのさ。当人の記憶が絵のように見えてくるんだ)
(当人の過去の記憶を読めるから、過去の出来事でも自由に知ることができるのよ。私たちは実体があるようでないから、どこへでも行けるし。それに姿を見えないようにすることもできるから、周囲の人間はだれも私たちにまったく気づかないの。霊感のつよい人間なら、霞か霧がチラッと見えるぐらいかしらね)
(神出鬼没なんだよね)
 語彙もたいしたものだ。
(でもね……実体があるようでないっていうのも、味気ないものなのよ。もうそろそろ、生身の身体が欲しいの)
(そう、僕たちは身体が欲しいんだ)
 じわじわと、二人がよってくる。
「な、何をする気なの?」
(ねぇ……私に身体をくれない?)
 全身が硬直してしまった。
 のっぺらぼうみたいに目鼻の無い、ぼんやりと光をはなつ顔がせまってくる。
(私たちね、ここに来たばかりのときは……、あんたが引き出しから開けて出してくれたときよ、本当にひからびてもう二度と動くことはできないかもという具合だったの。最後の力で美菜に働きかけて血を得て、それから麻衣からたくさんの血をもらって、復活することが出来たのよ。あんなふうに命が縮んでひからびていくような体験は、もう二度としたくないの)
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