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再生 七
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「麻衣の血って……?」
声がひきつってしまう。答えたのは男の子のトヨールだ。
(麻衣はちょうどお腹の中の胎児……とまでもいかない状況だったけれど、それが流れたばかりのときだったんだ。その流れてしまった血とエネルギーを僕らが吸収したんだ)
「えっ……」
麻衣は妊娠していた? 私はたじろいだ。友人の、知ってはいけない秘密を知ってしまったことに興奮とうしろめたさを感じて。
(妊娠といっても、本当に初期で形にはなってない頃だけどね。相手はダンススクールで知りあった男さ。そいつは美菜とも知りあいで、ちょっとした三角関係になりかけていたみたいで、それで話をつけるために二人は時々会っていたんだ)
そうやって歩いていたところを寮生に見かけられたのだ……。
「み、美菜は麻衣が妊娠していたこと、知っていたの?」
(知らないだろう。麻衣本人だって気づかない頃だったんだから。いまだに当人は、遅れていた生理がきたのか、それとも、もしかして流産したんだろうか、って悩んでいるさ。それに、どっちも相手の男にそう大して本気だったわけじゃない。二人は嫌い合っていたから、互いへの敵愾心だけで男を追っかけていたのさ。すぐ熱が冷めたよ)
子どもの姿をしたトヨールが、男女問題についてわかったように説明するのがなんだか片腹痛い。
(ねぇ……それよりも、私たち身体が欲しいの)
(ミミはそれでいいけれど、僕は?)
ミミ? 怪訝な顔をする私に女の子のトヨールが言う。
(私たち自分で名前をつけたの。私はミミ)
(僕はイザー。それで、僕の身体はどうなるんだよ)
(手ごろなのを探してあげるわよ。そのためにも、私が実体を持っていた方が都合がいいでしょう?)
〝ミミ〟はさらに言う。
(ねぇ、恵理、私にあんたの身体をちょうだいよ。考えてみれば、ミヨとの関係からいっても、そのひ孫であるあんたの身体をもらうのが一番いいわ)
じわじわと寄ってくる白い靄の塊に押されながらも、私はひっかかっていることを訊ねてみた。
「そ、そんなに何もかもさぐり出して知ることができるなら……美菜に何があったのかも知ってるの?」
(たいしたことはしてないわ)
「美菜が事故にあったことは、あなた達とは関係ないの?」
(関係なくもないかな。麻衣から血をもらったから、そのお返しとして麻衣の嫌っている美菜の足を、道路でちょっと引っぱってみたのさ。僕らトヨールは血をくれた人間にはちゃんとお返しをすることになっているんだ。麻衣のほうがたくさん血をくれたからね)
(簡単だったわよね。あんたが思っているほど、あの美菜って子は強くないのよ。麻衣もそうだけれどね。ああいう一見強がって見せてる連中にかぎって、いっつも心がゆらゆらしているものなのよ。ああいうのは、本当にたやすく私たちの意のままになるわ。さ、もういいでしょう? あんたの身体を私にちょうだい。美代から血をもらったときから、きっと、こうなる運命だったのよ)
二人の白い身体がせまってくる。
私は悲鳴をあげそうになった。
「いやよ! いや! 来ないで! 来ないでー!」
(あら……?)
私の方にのしかかってきた女の子のトヨールが、何かに気をひかれたように顔を、あらぬ方向に向けた。
(イザー、聞こえた?)
(ああ、聞こえたよ。どうやら、麻衣が面白いことになったみたいだ。どうする?)
(どうしよう?)
(気になるよね。とりあえず、そっちへ行ってみるかい?)
(そうね)
私の頭のなかではりつめていた神経の糸のようなものが、切れた。
声がひきつってしまう。答えたのは男の子のトヨールだ。
(麻衣はちょうどお腹の中の胎児……とまでもいかない状況だったけれど、それが流れたばかりのときだったんだ。その流れてしまった血とエネルギーを僕らが吸収したんだ)
「えっ……」
麻衣は妊娠していた? 私はたじろいだ。友人の、知ってはいけない秘密を知ってしまったことに興奮とうしろめたさを感じて。
(妊娠といっても、本当に初期で形にはなってない頃だけどね。相手はダンススクールで知りあった男さ。そいつは美菜とも知りあいで、ちょっとした三角関係になりかけていたみたいで、それで話をつけるために二人は時々会っていたんだ)
そうやって歩いていたところを寮生に見かけられたのだ……。
「み、美菜は麻衣が妊娠していたこと、知っていたの?」
(知らないだろう。麻衣本人だって気づかない頃だったんだから。いまだに当人は、遅れていた生理がきたのか、それとも、もしかして流産したんだろうか、って悩んでいるさ。それに、どっちも相手の男にそう大して本気だったわけじゃない。二人は嫌い合っていたから、互いへの敵愾心だけで男を追っかけていたのさ。すぐ熱が冷めたよ)
子どもの姿をしたトヨールが、男女問題についてわかったように説明するのがなんだか片腹痛い。
(ねぇ……それよりも、私たち身体が欲しいの)
(ミミはそれでいいけれど、僕は?)
ミミ? 怪訝な顔をする私に女の子のトヨールが言う。
(私たち自分で名前をつけたの。私はミミ)
(僕はイザー。それで、僕の身体はどうなるんだよ)
(手ごろなのを探してあげるわよ。そのためにも、私が実体を持っていた方が都合がいいでしょう?)
〝ミミ〟はさらに言う。
(ねぇ、恵理、私にあんたの身体をちょうだいよ。考えてみれば、ミヨとの関係からいっても、そのひ孫であるあんたの身体をもらうのが一番いいわ)
じわじわと寄ってくる白い靄の塊に押されながらも、私はひっかかっていることを訊ねてみた。
「そ、そんなに何もかもさぐり出して知ることができるなら……美菜に何があったのかも知ってるの?」
(たいしたことはしてないわ)
「美菜が事故にあったことは、あなた達とは関係ないの?」
(関係なくもないかな。麻衣から血をもらったから、そのお返しとして麻衣の嫌っている美菜の足を、道路でちょっと引っぱってみたのさ。僕らトヨールは血をくれた人間にはちゃんとお返しをすることになっているんだ。麻衣のほうがたくさん血をくれたからね)
(簡単だったわよね。あんたが思っているほど、あの美菜って子は強くないのよ。麻衣もそうだけれどね。ああいう一見強がって見せてる連中にかぎって、いっつも心がゆらゆらしているものなのよ。ああいうのは、本当にたやすく私たちの意のままになるわ。さ、もういいでしょう? あんたの身体を私にちょうだい。美代から血をもらったときから、きっと、こうなる運命だったのよ)
二人の白い身体がせまってくる。
私は悲鳴をあげそうになった。
「いやよ! いや! 来ないで! 来ないでー!」
(あら……?)
私の方にのしかかってきた女の子のトヨールが、何かに気をひかれたように顔を、あらぬ方向に向けた。
(イザー、聞こえた?)
(ああ、聞こえたよ。どうやら、麻衣が面白いことになったみたいだ。どうする?)
(どうしよう?)
(気になるよね。とりあえず、そっちへ行ってみるかい?)
(そうね)
私の頭のなかではりつめていた神経の糸のようなものが、切れた。
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