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夢の館で 五
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背を伸ばして手に取ってみて、マルゴは一瞬、目をまたたいた。表紙の挿絵は下半身裸の中年男が少女を追いかけているものだった。
「皇帝ね」 覗きこんだヴァイオレットが告げた。
よく見ると、その版画の絵の男は、レジオン・ドヌール大綬章をつけている。ナポレオン三世を疑似化したものだ。表紙には『ナポレオン三世の色事』とある。
「マルゴ、あなた、字は読めるののよね?」
「はい」 マルゴは胸を張った。
「小学校で習いましたから。でも、難しい字とかはあんまり……」
小学校だけだが、それでも四人に一人は小学校にも通うことがなく、識字率がまだまだ低い現代のことを考えれば充分だろう。二人は並んで、その前の住人の愛読本を眺めた。
「皇帝が……、今はもう皇帝じゃないけれど、イギリスにいたころ料理人の娘を追いかけまわしていたときの話を面白おかしく書いているのよ」
ぺらぺらと本をめくりながら、ヴァイオレットが白けた口調で言う。側にいるのがクララだったら、「こんなものは見てはいけません!」と眉をひそめたことだろう。
棚には他にも数冊の本があり、さらに手を伸ばしてみると、『さまよえるユダヤ人』と『パリの秘密』というウージェーヌ・シューという作家のものだった。どちらもマルゴは読んだことがない。それらの本もヴァイオレットはぺらぺらとめくって、元あったところに戻しながら、「読むのなら『パリの秘密』にしなさい」と忠告する。
「読書はあんまり……」
ある程度読み書きはできるが、マルゴには本を読む習慣がない。読書する時間があまりないのだ。それでも読んだことがあるのはただ一冊、ドュマの『王妃マルゴ』だけだ。自分とおなじ名前の主人公の物語なので興味があり、田舎の屋敷の書斎にその本を見つけたとき気になって、こっそり仕事の合い間に少しずつ読み続けたのだ。難しかったが、まぁまぁ面白かった。まだ半分しか読んでいないが、田舎にもどったら続きを読みたいと思っている。そんなことを考えているマルゴにぽつりとヴィオレオットが呟く。
「旦那様は……もう長くないかもしれないわ」
「皇帝ね」 覗きこんだヴァイオレットが告げた。
よく見ると、その版画の絵の男は、レジオン・ドヌール大綬章をつけている。ナポレオン三世を疑似化したものだ。表紙には『ナポレオン三世の色事』とある。
「マルゴ、あなた、字は読めるののよね?」
「はい」 マルゴは胸を張った。
「小学校で習いましたから。でも、難しい字とかはあんまり……」
小学校だけだが、それでも四人に一人は小学校にも通うことがなく、識字率がまだまだ低い現代のことを考えれば充分だろう。二人は並んで、その前の住人の愛読本を眺めた。
「皇帝が……、今はもう皇帝じゃないけれど、イギリスにいたころ料理人の娘を追いかけまわしていたときの話を面白おかしく書いているのよ」
ぺらぺらと本をめくりながら、ヴァイオレットが白けた口調で言う。側にいるのがクララだったら、「こんなものは見てはいけません!」と眉をひそめたことだろう。
棚には他にも数冊の本があり、さらに手を伸ばしてみると、『さまよえるユダヤ人』と『パリの秘密』というウージェーヌ・シューという作家のものだった。どちらもマルゴは読んだことがない。それらの本もヴァイオレットはぺらぺらとめくって、元あったところに戻しながら、「読むのなら『パリの秘密』にしなさい」と忠告する。
「読書はあんまり……」
ある程度読み書きはできるが、マルゴには本を読む習慣がない。読書する時間があまりないのだ。それでも読んだことがあるのはただ一冊、ドュマの『王妃マルゴ』だけだ。自分とおなじ名前の主人公の物語なので興味があり、田舎の屋敷の書斎にその本を見つけたとき気になって、こっそり仕事の合い間に少しずつ読み続けたのだ。難しかったが、まぁまぁ面白かった。まだ半分しか読んでいないが、田舎にもどったら続きを読みたいと思っている。そんなことを考えているマルゴにぽつりとヴィオレオットが呟く。
「旦那様は……もう長くないかもしれないわ」
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