白薔薇黒薔薇

平坂 静音

文字の大きさ
43 / 62

変わる世界 四

しおりを挟む
「そ、そんな……」
 自分が思っていた以上にブルーム家はもろかったようだ。
「ベルトにもそのことを手紙で報告しておいたの。彼女も、もうすぐ辞めるつもりだったそうだから、異論はないみたい」
(わたしはどうなるのよ?)
 マルゴはやや焦りながら訊いてみた。
「そ、それじゃ、わたしはこのままこのお屋敷で働くのですか?」
 ヴァイオレットはそこですこし眉を寄せた。
「実をいうと、旦那様は、あなたをシャピー家、つまりフランソワの実家で使ってもらえないかと思っていらっしゃったの。でも、シャピー家では人手は足りていると言われて、それならだれか村の若者と結婚させようかと考えていらっしゃるわ。それが無理なら、もうすこし世のなかが落ち着いたら、どこかのお屋敷で使ってもらえないかと」
 聞いていてマルゴは身体から血が引いていく想いがした。どこまでいっても自分は主の意向で好き勝手にされる使用人だったのだ。
(わかってはいたことだけれど……でも、そんなのあんまりだわ。せめて、わたし自身に訊いてくれたら……)
 フランソワとの昨夜の一件がなければ、そういうものだと納得できたかもしれないが、今のマルゴにはヴァイオレットの言うことはひどく不条理なことに思える。
(わたしはクララの身代わりになって、これだけ尽くしたのに……。ブルーム家のために、旦那様やクララのために、わたし自身をさしだしたのに……、それなのに、ひどいわ、さっさとわたしを放り出そうというの?)
 さすがにそんな想いが顔に出ていたのだろう。ヴァイオレットは眉をひそめた。
「気に入らないの?」
「……嫌です。わたしはずっとブルーム家にいたいです」
 ますますヴァイオレットは眉をひそめた。それを見た瞬間、マルゴの胸内でちいさな火が爆ぜた。
(なによ、偉そうに。自分だって使用人じゃないの)
 思えば、ヴァイオレットだとて使用人の一人で、使われている立場という点ではマルゴと変わらないはずだ。だが、教育のある彼女はいつも尊大で、ベルトがそんな彼女を憎々しく思っていたのが今のマルゴはよくわかる。
 マルゴは言わずにいられなくなった。
「わ、わたしはお屋敷のために精一杯のことをしました。それぐらいのことを求めても罰は当たらないと思います」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

【完結】『謀反人の汚名を着た武田信玄 ~残された秘策と隠された忠義~』

月影 朔
歴史・時代
元亀四年、病で倒れたとされる武田信玄は生きていた。天下の行く末を憂う彼は、あえて「謀反人」の汚名を着て影で活動する。その真意を探る密命を受けた若き忍び・疾風の小太郎は、信玄が残した「秘策」を求め、旅に出る。 各地で出会う仲間たち、そして織田信長の放つ刺客との死闘の中で、小太郎は信玄の壮大な計画の全貌に迫っていく。それは、武力による統一ではなく、人の心を繋ぎ、古き良き日本の魂を取り戻すための、深謀遠慮の策だった。 信玄の真の忠義が試される時、歴史は大きく動き出す。これは、影で天下を動かした男と、その志を継ぐ若者が織りなす、感動と成長の戦国絵巻である。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

処理中です...