転デュラ! 転生したらデュラハンだったけど、あんまり問題なかったよ!

風雪弘太

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一章 第一部

一章 第一部 悲鳴

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「るんたったーらりりたったーりりたたりーりりたたー♪」

 何が楽しいのか、アヌビスは歩いている僕の前を鼻歌を歌いながらスキップで進んでいた。
 体感時間的には数十分。
 先ほどまで地上のものたちを照らしていた太陽も、今や完全に沈み、今は月の光にその役目を譲っていた。

「りらりららんら…… ? 時雨さん。何か言いましたか?」

 ふと、アヌビスは鼻歌とスキップをやめて立ち止まった。

「どうしたんだ?」

 辺りを警戒しているアヌビスに僕はのんきに尋ねる。
 だが、シッと言う短い音と指を口に当てたアヌビスに制され、僕はその場で黙り込む。

「……また聞こえました…… これは…… 悲鳴?」

 アヌビスはそう言うと同時に僕の手を取って走り始めた。
 
「な、何を⁉」

驚く僕に、

「いいからついてきてください」

 アヌビスは短く言うと何か明確な意志を持ってよく分からない方向へと走っていった。




「はぁ…… はぁ…… もうそろそろいいか、アヌビス?」

 かなりの距離を走破し、一旦立ち止まった後に慎重に歩みを進めるアヌビスに対して、僕は自分の右手首の解放を要求した。

「え? あ! す、すいません! ちょっと慌ててたみたいで……」

 今更になってようやく僕の手を握ったままでいることに気付いたのか、アヌビスは慌てて僕の手首から手を離す。

……これでいい。後もう少しでも遅いと、顔が真っ赤になるところだった。
 だってそうだろ⁉ いきなりちょっと痛い設定が入ってるとはいえ、かわいい女の子に手をつながれるんだぜ⁉ むしろここまでポーカーフェイスを貫き通した僕のことを褒めてくれても……

「時雨さん、おそらく…… 戦闘になると思います。なのでこれを……」
 
 キャラクターが崩壊しそうなまでに激しくなった僕の思考。だがアヌビスに声をかけられたことによりふっと現実に引き戻される。

アヌビスが渡してきたのは一つの中ぶりの片刃剣だった。
 どんな材質でできているのかはよく分からないが、紫色と黒色のマーブル模様のようになっていた。

「なんだ……? これ? それに戦闘になるってどういう……?」

 そのなんとも言えない禍々しい剣を一応は受け取りながらも、僕はアヌビスに聞いておく。情報の共有は大切だ。

「あ…… それはですね…… 聞こえたんですよ。悲鳴が」
「悲鳴……? でも僕には全然……?」
「あ、そこら辺は大丈夫です。時雨さんはその包帯のせいで聴覚もだいぶ落ちてますし」
「そ、そういうものなのか……?」

 なんとなくはぐらかされたような気がしながらも、僕は曖昧に頷く。
 まあ、アヌビスが嘘をつくとは思えないし、言い方に含みがあっても問題ないのだが…

「ま、とにかくそこへ行こう。あとどのくらいでつくんだ?」

 僕はそう言って辺りを見回す。これと言って何かがあるようには思えないのだが……

「それが……」

 そう言ってアヌビスは火のついた『サラマンダーの大腿骨』を前方にある巨大な岩の方へと向ける。

「悲鳴はあの裏から聞こえてきたんです」


……先に言ってほしかった。

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