転デュラ! 転生したらデュラハンだったけど、あんまり問題なかったよ!

風雪弘太

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一章 第一部

一章 第一部 手形

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「あれ……? 時雨さん……?」
「あ、起きたか」

僕がアヌビスのもとに駆け寄ってから数秒後。
アヌビスは小さなうめき声とともにうっすらと目を開けた。
その首元には、濃く、はっきりと紫色の手形がついている。

「は! そうです!あのフードの人はどこに!?」

しばらくぼんやりとあたりを見まわしていたアヌビスだったが、不意に大きな声を出した。
さっきまで気絶してたんだから、あまり騒ぐのは良くないぞ?

「そこに…… あれ? いない?」

僕は先程あいつが縫い付けられていた石柱を見るも、そこにあいつの姿はなかった。

「ふむ…… 逃げられてしまったようですね…… まぁ、生きていますし、それで良しとしましょう

……あまり釈然としないが、アヌビスがそう言うならいいか。

「アヌビス、今日はいろいろあったし、ここにテント張るか?」

「……時雨さんがそう言うならいいですが…… あ! そうです! あそこに倒れているあの人、どうします
か?」

そう言ってアヌビスは倒れている人の方を指差す。
……そういえばすっかり忘れていた。どうしたものか……

「なあ、アヌビス。お前の風呂敷の中に、テントとか、ベッドとかってあるか?」
「はい、一通り揃ってますが…… まさかここで寝る気ですか?」

……そのまさかだ。

アヌビスの言いたいこともわかる。

あれだけたくさんの死体があったのだ。ここはかなり危険だろうし、なにより祟られそうだ。
 しかし、アヌビスは結構衰弱してるし、片手に頭を持ったままで他の人を担ぐのは、いくらなんでも厳しいだろう。

 それに何より……

「仕方ないだろ。僕もちょっと疲れた」

 最後の方こそ呆気なかったが、あいつの放つプレッシャーは相当なものだった。
 そんな僕の考えを読み取ったのか、アヌビスはそれ以上、特に何も言わなかった。

「そうと決まれば行動は速いほどいいです! ……よいしょっと」

 アヌビスはそう言うとどこからか例の大風呂敷を取り出した。
 そしてその中から、二つのテントと、三つのベッド、毛布やランタンなどの付属品を次から次へと取り出していく。

毎度毎度思うが…… あれだけの量がどうやってあの風呂敷の中に入っているのだろう。
……考えても仕方ないか。

「では、ちゃっちゃと組み立てて、今日は寝ましょう!」

 アヌビスは元気よくそう言い、立ち上がる。
 いやいや、立ち上がっちゃダメだろ。

「いや、組み立てとかは僕がやるから、アヌビスは座っててくれ」
「へ?」

 僕の言葉にアヌビスは心底不思議そうな顔をする。
 ……もしかして、気づいてないのか?

「何言ってんですかー 私は全然元気ですよ?」

 アヌビスはほら、と言って両手を回し始める。

 元気さのアピールらしい。

「はぁ…… 自分の首を見ろ」
「首? ……わかりま……」

 溜め息をつきながらいった僕の言葉にアヌビスは訝しながらもどこからか発生させた鏡を覗き込む。
そして…… たっぷり数十秒ほど固まった後に……

「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 自分の首についた紫色の手形に、今気づいたようだった。

「いや、流石に僕もアヌビスの首がそんな状態なのに動かしたりしないから、そんなことよりも早く寝て明日に備え…… って聞いてる?」

「ぶち殺す! 三枚におろす! 原形すら残らないミンチにした後にハンバーグにして魔獣の餌にしてやる!」
「怖いから⁉︎」

アヌビスは僕の言葉が届かないほどお怒りだった。

「『戒烈の言霊。永久の夢幻。散りゆく世界の礎と成りて、烈火の砲弾と化せ。我は世界に災禍をもたらさん。我は世界に罪悪をもたらさん。己の罪と悪を数えながら、その報いを恐れよ。連鎖、〈エラグレッシブ・イムぐぐぐ!〉』な、何するんですか時雨さん⁉︎」
「落ち着け」

 何やら本当に危なそうな呪文を唱え始めたアヌビスの口を塞ぎ、僕は一旦落ち着くように言い聞かせた。

「僕は、アヌビスのことが心配なんだよ。今日は大人しくしてくれ」
「わかりました……」

やや憮然とした顔をしていたが、最終的にアヌビスは頷き、手早く折りたたみ式のベッドを組み立てると、その上に寝転んだ。
 さて…… これからどうするか……
 僕は目の前の地面に置かれたテントとベッドを見て、溜め息をついた。
 まだまだ、僕は寝れそうにない。
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