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一章 第一部
一章 第一部 勝利
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見える。今なら、この暗闇が真昼のように。
……少し見えすぎるような気もするが。
あいつは、僕のことをまだ探し出せていない。
「おーい、聞こえてるのかい? まあ、君がなにか言ったって、よほどの大声じゃないと俺には聞こえないんだけどねー」
ようやく、あいつの声が僕の耳に届いてきた。
……この口ぶりだと、あいつはまだアヌビスに危害は加えていないだろう。
そして、僕がまだあいつを見つけられていない高を括っているのだろう。
まあ、見当違いにも程があるが。
僕はあいつの声が聞こえたほうに目をやる。
よし。はっきりと見えた。
あいつに捕まれてぐったりとしているが、アヌビスは無事そうだ。
……よし、ここから慎重に近づいて……
「はーあぁ、もう飽きちゃったなー ねえ、君のお友達は、もう逃げちゃったみたいだねー」
あいつは突然そう言うと、自分が捕まれているアヌビスに向かってにやにやと笑った。
「じゃ、君、殺しちゃうけど、文句ないよね? って、聞いても答えられないかー」
「やめろ!!」
気がつくと、僕は反射的にそう叫んでいた。
さっき頭の中で立てていた作戦は、全て吹き飛んでしまっている。
流石に、この叫びはあいつに伝わったようだ。
「おっとー これはびっくり。まだ逃げてなかったのかー」
あいつはわざとらしくそう言うと、僕の方を向く。
しかし、なぜかあいつの顔は僕に見えなかった。
「逃げるわけないだろ……!」
「確かにそうだよねー」
僕が静かにそう言うと、タイミングよくあいつも返した。
そしてあいつは何やら考え込む様子を見せると、すぐ後、何かを思いついたかのように手を打った。
「……そうだ! ゲームをしよう!」
「ゲーム……?」
「俺と君とで、この子と、そこの人の命をかけたゲームだよ。あ、もちろんあまり時間はかけないよ?」
「ふざけっ!!」
「あ、俺が感じれるのは言葉の発している振動だけだから、感情とかはわからないなー ゴメンね?」
……落ち着け。落ち着くんだ……
あいつのにやにやとした声を聞いて、僕はカッとなった感情を抑え込んだ。
「……それじゃ、ゲーム内容の説明だよー 一回しか言わないからよく聞いてね?」
あいつはそんな僕など気にもとめず、ゲーム内容の説明とやらをし始める。
「ルールは簡単。俺がこの子を殺すのが先か、君が俺を殺すのが先か。……そんなゲーム内容の中のどこにあそこで倒れている人の命が含まれるのかって?」
あ、それには気づかなかった。
「俺はちょっとした特殊体質でさー 命を殺せば殺すほど強くなっていけるんだよ。さっきの即死レベルの攻撃を防げたのもそれが理由」
……なるほど、だからアヌビスはあんなに油断してたのか……
ここに向かってくる途中に見たあの死体の山を思い出す。
その間にもあいつはたくさんのことを勝手に喋った。
先程のアヌビスの攻撃により、いまはかつてないほど弱体化していること、
しかしアヌビスを殺せばその力が一気に元に戻ること。
そうなってしまえば僕を殺して、あそこで倒れている人を殺すのが容易だということ。
「あ、俺が十数えるうちに俺を殺さないとこの子は死んじゃうからー 俺が殺すからねー」
あいつはのうのうとそんなことを言った。
どこからその自信が出てくるのか。
僕は適当な岩に自分の頭を置いた。
あいつの姿がしっかりと視界に入るように。
「じゃあ、行くよー 十、九……」
僕はあいつが『十』と言った瞬間に走り始めた。
身体が軽い。これはあまり焦らずにじっくりと……
「な!?」
僕はしっかりとあいつの方向を見て、そして驚きのあまり声をあげた。
縮まっていないのだ。距離が。
さっきから全くもってあいつに近づけていない。
しかし、その間にも着々と時間は進んでいく。
「七、六…… 大丈夫かーい!? 早く俺を捕まえないとー 誰も逃げないなんていってないからー」
僕の疑問はすぐにあいつが晴らしてくれた。
なるほど、逃げる…… ね……
僕はその言葉を聞いた瞬間。
アヌビスに貰った剣を投げた。
その剣は寸分違わずあいつの横っ腹を貫き……
真横にあった岩の塔へと縫い付けた。
「ぐひゃ!?」
あいつは腹部を貫かれた衝撃と、岩に叩きつけられたことにより、変な声を出すと、その場で沈黙し、ピクリとも動かなくなった。
「…………」
あっけない、最後だ。
僕は少し戻り、自分の頭をきっちりと持ってからアヌビスの状態を確認しに向かう。
……少し見えすぎるような気もするが。
あいつは、僕のことをまだ探し出せていない。
「おーい、聞こえてるのかい? まあ、君がなにか言ったって、よほどの大声じゃないと俺には聞こえないんだけどねー」
ようやく、あいつの声が僕の耳に届いてきた。
……この口ぶりだと、あいつはまだアヌビスに危害は加えていないだろう。
そして、僕がまだあいつを見つけられていない高を括っているのだろう。
まあ、見当違いにも程があるが。
僕はあいつの声が聞こえたほうに目をやる。
よし。はっきりと見えた。
あいつに捕まれてぐったりとしているが、アヌビスは無事そうだ。
……よし、ここから慎重に近づいて……
「はーあぁ、もう飽きちゃったなー ねえ、君のお友達は、もう逃げちゃったみたいだねー」
あいつは突然そう言うと、自分が捕まれているアヌビスに向かってにやにやと笑った。
「じゃ、君、殺しちゃうけど、文句ないよね? って、聞いても答えられないかー」
「やめろ!!」
気がつくと、僕は反射的にそう叫んでいた。
さっき頭の中で立てていた作戦は、全て吹き飛んでしまっている。
流石に、この叫びはあいつに伝わったようだ。
「おっとー これはびっくり。まだ逃げてなかったのかー」
あいつはわざとらしくそう言うと、僕の方を向く。
しかし、なぜかあいつの顔は僕に見えなかった。
「逃げるわけないだろ……!」
「確かにそうだよねー」
僕が静かにそう言うと、タイミングよくあいつも返した。
そしてあいつは何やら考え込む様子を見せると、すぐ後、何かを思いついたかのように手を打った。
「……そうだ! ゲームをしよう!」
「ゲーム……?」
「俺と君とで、この子と、そこの人の命をかけたゲームだよ。あ、もちろんあまり時間はかけないよ?」
「ふざけっ!!」
「あ、俺が感じれるのは言葉の発している振動だけだから、感情とかはわからないなー ゴメンね?」
……落ち着け。落ち着くんだ……
あいつのにやにやとした声を聞いて、僕はカッとなった感情を抑え込んだ。
「……それじゃ、ゲーム内容の説明だよー 一回しか言わないからよく聞いてね?」
あいつはそんな僕など気にもとめず、ゲーム内容の説明とやらをし始める。
「ルールは簡単。俺がこの子を殺すのが先か、君が俺を殺すのが先か。……そんなゲーム内容の中のどこにあそこで倒れている人の命が含まれるのかって?」
あ、それには気づかなかった。
「俺はちょっとした特殊体質でさー 命を殺せば殺すほど強くなっていけるんだよ。さっきの即死レベルの攻撃を防げたのもそれが理由」
……なるほど、だからアヌビスはあんなに油断してたのか……
ここに向かってくる途中に見たあの死体の山を思い出す。
その間にもあいつはたくさんのことを勝手に喋った。
先程のアヌビスの攻撃により、いまはかつてないほど弱体化していること、
しかしアヌビスを殺せばその力が一気に元に戻ること。
そうなってしまえば僕を殺して、あそこで倒れている人を殺すのが容易だということ。
「あ、俺が十数えるうちに俺を殺さないとこの子は死んじゃうからー 俺が殺すからねー」
あいつはのうのうとそんなことを言った。
どこからその自信が出てくるのか。
僕は適当な岩に自分の頭を置いた。
あいつの姿がしっかりと視界に入るように。
「じゃあ、行くよー 十、九……」
僕はあいつが『十』と言った瞬間に走り始めた。
身体が軽い。これはあまり焦らずにじっくりと……
「な!?」
僕はしっかりとあいつの方向を見て、そして驚きのあまり声をあげた。
縮まっていないのだ。距離が。
さっきから全くもってあいつに近づけていない。
しかし、その間にも着々と時間は進んでいく。
「七、六…… 大丈夫かーい!? 早く俺を捕まえないとー 誰も逃げないなんていってないからー」
僕の疑問はすぐにあいつが晴らしてくれた。
なるほど、逃げる…… ね……
僕はその言葉を聞いた瞬間。
アヌビスに貰った剣を投げた。
その剣は寸分違わずあいつの横っ腹を貫き……
真横にあった岩の塔へと縫い付けた。
「ぐひゃ!?」
あいつは腹部を貫かれた衝撃と、岩に叩きつけられたことにより、変な声を出すと、その場で沈黙し、ピクリとも動かなくなった。
「…………」
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僕は少し戻り、自分の頭をきっちりと持ってからアヌビスの状態を確認しに向かう。
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