君の左目

便葉

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彼の横顔 …5

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私が少しだけ時計に目をやると、幹太はすぐにそれに気付く。

「時間は? 大丈夫か?」

私は静かに頷いた。

「九時半が最終だから、そのバスに乘れれば大丈夫」

幹太も時計を見る。そして、行こうと私に目で合図して、幹太はレジの方へ歩き出した。私は上着をはおりバッグを肩にかけて幹太の後を追った。
幹太はもう精算を済ませ、斎藤さんと仲良く話している。私を見つけた斎藤さんは幹太に向かってこう言った。

「寧々ちゃんのご両親が転勤になって、僕はすごく心配してたんだけど、こんなにたくましいお友達が近くに越してきて、ちょっとホッとしてます。
寧々ちゃんと仲良くしてやってくださいね」

斎藤さんは柄にもなく深々と頭を下げている。

「斎藤さん、頭を上げて下さい。
僕と寧々は古い付き合いだし、僕は寧々のために何かする事を一度も苦に思った事はないので、大丈夫です。安心して下さい」

幹太の言葉に嘘はない。幹太は私のために何でもしてくれる。だから、尚更、今の私を知られるのが怖かった。
今の何もできない私を知ってしまえば、幹太は愛情ではなく同情で私の事を守り出す。同情ほど辛いものはない。同情で側にしてくれるのなら、いっそのこと側にいてくれなくていい、大好きな幹太なら尚更…


店から外へ出ると、もう闇の世界だった。
両親が家を出て行ってから、ほとんど夜に出歩かない私は、久しぶりの闇の世界に一瞬足がすくんでしまった。

バカな私はとっさに幹太の腕に手をかける。右目のだけの小さな視界は夜の闇に飲み込まれ、一人では怖くて立っていられない。
そんな私に気付いているくせに、幹太は何も言わずに私の肩を引き寄せた。
さりげなくそして当たり前のように、私の左側の肩を抱き寄せる。

「幹太… ありがとう…」

私は胸に込み上げてくるもの必死に飲み込んだ。幹太はいつも私が求める優しさを与えてくれる。

「幹太… 実は、私ね…」

幹太にちゃんと話さなきゃ…
幹太と友達としてつき合っていくのなら、私の今の現状をちゃんと伝えなきゃいけない。

「…寧々、俺は、全然、急いでなんかないから。
俺達は、今日、やっと再会できたんだ。
話したくない事があるんだったら、無理に話さなくていいよ」

幹太の右手はしっかりと私の左肩を支えていて、私の視界に入らない障害物があったとしても、幹太は何事もないようにそこを通り抜けるだろう。
私は幹太に出会えた幸運を不運だと思った。
幹太なしでは生きていけなくなる。私の本能はそれを分かっている。

バス停までずっと昔の話をして歩いた。私が転校する前までの話。幹太も私に合わせてそれ以降の話はしなかった。

「優樹菜は、地元に居るの?」

あの頃の私の思い出に優樹菜は欠かせない。唯一、お互いを親友と認め合っていた仲だから。

「優樹菜は美容師になってる。高校卒業して、専門学校出て、しばらくは横浜の方で働いてたみたいだけど、最近、地元に帰ってきて、なんか新しく美容師仲間とお店を立ち上げたらしい。俺は行った事はないけど」

私はウキウキしながら幹太の話を聞いていた。
あの頃の友達は私の中ではいつまでも子どものままで、でも、皆、いつの間にか大人になっいてそれぞれの道をしっかりと歩んでいる。

「美容師か… 優樹菜らしいな。
あの頃から活発でお洒落で誰とでも仲良くなれるのが優樹菜で、私からしたら羨ましい性格だったもん」

幹太は笑いながら、さりげなく私の足元に転がっている大きめの石ころを道の向こうに蹴り出した。さっきから何度も、私の歩く道の先を気にかけている。

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