君の左目

便葉

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彼の横顔 …6

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「私は優樹菜や幹太が友達でいてくれて、本当に良かった…
あの頃、優樹菜のおかげでたくさん友達もできたし、幹太が居てくれたから大人しい私がいじめに遭わずに楽しく過ごせたんだと思ってる。
幹太、本当に、ありがとうね」

幹太は何も言わずに、私の右肩を少しだけ自分の方に引き寄せた。

「幹太、今日はありがとう。
ちょうどいい時間で良かった、あと五分でバスが来るみたい」

駅前のロータリーに着いた私達は、バス停のベンチに腰かけた。最終バスだというのに、待っている人は私達を合わせて三人しかいない。

「寧々の家はさ… バス停から近い?」

私はクスッと笑った。幹太は子供の頃から、必ず私を家の前まで送ってくれた。家が近かったせいもあるけれど、その頃の幹太は、寧々が可愛い過ぎるから変なおっさんが付いてくるかもしれないだろなんて、大人びた事を言ってたっけ。

「バス停からは七分位歩くかな。でも、明るい通りだし、家の近くにコンビニもあるし、全然大丈夫だよ」

幹太は険しい顔をして私を見る。

「家まで送るよ」

「幹太… 大丈夫だって。
だって、このバスで最後なんだよ。今度は、幹太が、駅まで帰る手段がなくなっちゃうよ」

幹太は、駅前に入る交差点で信号待ちをいているバスを見つけ、それをジッと見ている。

「いいの、俺が行きたいんだから。帰る手段なんて何とでもなるよ」

幹太はそう言うと、隣に座る私の手を取り立ち上がった。

「ほら、行くぞ」

久しぶりに再会したのに、幹太はいつもの幹太で、全く会えなかった十数年の年月を一瞬で無いものにした。
私の素直な心は幹太に甘えたがっていて、幹太の匂いや温もりに、私の魂は居場所を見つけたと錯覚している。

バスの中でも、幹太は当たり前のように私の隣に座った。
たった三人しか乗客がいない中、二人掛けの座席にくっついて座っている私達はバカみたいだ。でも、幹太は、何だか嬉しそうな顔をして、私の顔越しに見える外の夜の風景を目を細めて眺めている。

私の実家近くのバス停に着くと、幹太は私がよろめかないようにまた手を握ってくれた。幹太のそのさりげない気遣いが、私の不安を全て追い払ってくれる。
バスから降りて、私はバス停にある時刻表をもう一度確認した。
でも、やっぱり、もうバスは走っていない。

「寧々、どっちの方向だ?
寧々が進まないと、俺は何も知らないんだからな」

私は余計な心配をするのを止めた。私が知っている幹太はどんな逆境でも乗り越える力を持っている。帰りのバスがないくらい、きっと幹太には何の問題にもならないはず。

そして、私達は、月明かりの下、小学校の校歌を歌いながら歩いた。出だしを歌い始めた幹太に釣られ、私の記憶がぐんぐん蘇ってくる。幹太に合わせて私もちゃんと校歌を歌えた事が一番の驚きだった。
幹太と歩いていると、あっという間に時間が過ぎる。もう、私の家の前に着いていた。

「幹太、本当にありがとう。もう、着いちゃったね…」

私が名残惜しそうにそう言うと、幹太は寂しそうに微笑んだ。

「寧々…
もうちょっと寧々と一緒にいたい…
何だか久しぶり過ぎて、なんか、俺、訳分かんなくなってる。
もう、寧々の事で頭がいっぱいで…
ガキの頃と一緒だよ、俺は寧々を目の前にしたら、寧々の事しか見えなくなる」

小さい頃は、幹太の愛の告白は、挨拶みたいなものだった。私と目が合えば、寧々が好きとか、寧々、マジで可愛いとか、普通にそう言っていた。

でも、大人になった愛の告白は、私の心臓に大きな矢が突き刺さったそんな気分。苦しくて切なくてどうしようもない。
そして、何の涙なのか、次から次へと涙が溢れ出す。

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