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途切れた想い …1
しおりを挟む寧々が崖の下に落ちたあの日から三日が過ぎた。俺は、あの時のショックが大き過ぎて、いまだに学校へ行けず家でふさぎ込んでいる。
あの時、崖の上から突風が吹いて体が前後に揺れた寧々は、俺に救いを求めて必死に俺の方へ手を伸ばした。俺はすぐに寧々の右手を左手で掴んだ。
そこから先の記憶は、早送りで進んで行く。早送りで進むけれどどこも飛ばす事なく、その記憶は俺を苦しめる。
後ろに傾く寧々の体を、俺は力いっぱい俺の方へ引き寄せたけど、寧々の右手は俺の手から離れていった。
「…寧々、寧々~~」
優樹菜の悲鳴が俺の耳にこだました。
どれくらいの時間、俺はそこに立ち尽くしたのかは分からないけど、でも、頭がまともに動き出した時、俺は寧々の落ちた崖の下へ夢中で下り始めた。
「寧々~~、寧々~~~」
必死に叫ぶ俺の声は自分の声なのかも分からないくらい変な声で、急斜面の林の中を、俺は危険も感じないでただひたすら滑り落ちた。
思っていた以上に谷底が深くて、俺は心臓が破裂しそうだった。
怖くて怖くて寧々を呼ぶ声は涙声でか細くて、自分の犯した罪が下に下りるにつれ、大きな恐怖となって俺を追い詰める。
寧々、ごめん、寧々、ごめん…
俺は泣きながら、一番下まで下り切った。
「寧々…」
寧々を見つけた。血まみれになって岩の上に横たわっていた。
ショートパンツをはいていた寧々の綺麗な足は、傷だらけで血だらけで白い皮膚が分からないくらいで、でも、それよりも、うつ伏せに倒れている寧々の左側のおでこの辺りから血が大量に出ていた。
俺は、100%俺のせいだと思った。俺の大好きな寧々は死んでしまった。
俺は怖くて怖くて、でも、寧々の近くにいてあげたい。
「寧々… ごめん…」
俺が寧々の近くでそう呟いた時、寧々の右手が動いた気がした。
生きてる… 寧々は死んでない…
俺は泣きながら降り出した雨から寧々を守りたくて、寧々の傷ついた頭が雨に濡れないように、崖下に捨てられているゴミの中から段ボールを見つけてそれを広げ、寧々の体を容赦なく打ちつける雨から必死に守った。
早く、早く、誰か助けに来て…
小学生の俺はそれ以上何もできる事はなく、ただただ、神様に祈るだけだった。
神様、寧々を救って下さい…
それからどれくらい時間が経ったのだろう…
かっぱを着た大人達がライトを照らして、やっと俺達の近くに来てくれた。
俺は… その時には意識が朦朧としていて、自分では気付かなかったけれど、俺自身も体中が血だらけで、寧々の後に救急車で病院へ運ばれた。
俺は町内にある救急病院へ、寧々は隣町にある大きな総合病院へ。
そして、それっきり…
俺は、寧々がどんなケガで命は助かったかとか、何も誰にも聞かされていない。
あの事故から四日目の朝、俺は学校に行く事にした。
俺のケガなんて擦り傷程度だったし、それにもしかしたら、寧々も元気になって学校に来ているかもしれない。
ただ寧々に会いたい… 俺はそれだけの理由で学校へ行った。
俺が教室に入ると、教室の中がざわついた。
きっと、皆、この事故は俺のせいだと思ってる。さすがの俺もまだ全く本調子じゃなくて、皆の冷たい視線は俺のふさぎ込む心にブスブスと突き刺さった。
「幹太… 幹太…
幹太、ごめん、本当にごめんね…」
そう言って、俺を助けに来てくれたのは優樹菜だった。
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