17 / 69
彼の時間 …3
しおりを挟む「マジで何もないんだ。寧々が居心地がいいようにしたいから、クッションとかあった方がいいのかな? なんて思って」
私は嬉しくて幹太の腕に抱きついた。
「うん、クッションあった方いいな。
大きめでフカフカのやつ」
幹太は、私が甘えてきた事をすごく喜んで、顔をクシャクシャにして笑った。
私達は、川の水が滝つぼへ落ちるように急激に恋に落ちた。いや、もう、とっくの昔に恋には落ちていて、更に更に、地中の奥深くまで、大人になった私達は喜んで堕ちていく。
幹太のマンションは、思っていた以上に立派なマンションだった。
思ってた以上にというところで幹太には失礼な話だけど、でも、よくよく考えてみたら幹太は一流企業に勤めていて、これ位のマンションは当たり前なのかもしれない。
もちろん建物はオートロックで、エントランスには管理人さんが常駐している。年配の管理人さんは幹太を見つけると笑顔で会釈をした。
幹太の部屋は四階の角部屋だった。エレベーターを降りたらすぐの場所で、幹太の玄関ドアの前だけちょっとしたスペースがある。そこに、不必要になった段ボールが乱雑に置いてあった。
「あ、これは、気にしなくていいから。
後で業者さんが取りに来るから」
幹太はどうやら片付けが苦手らしい。でも、神経質じゃないところが幹太らしくて私は好き。
「どうぞ」
幹太の新居はとても明るい部屋で、玄関からいきなりリビングという変わった間取りは開放感で心地いい。
「ちゃんと片付いてて、ビックリ」
私が部屋を見回しながらそう言うと、幹太は買い込んだ荷物をドサッとキッチンに置いた。
「片付いてるっていうか、物が何もないだけだよ。
ベッドもないから、その奥の和室に寝てる。
あ~、ベッドも欲しいな~ 寧々も一緒に寝れる大きいやつ」
「もう、幹太、飛躍し過ぎ」
私が顔をしかめてそう言うと、幹太はヘ?みたいな顔をしている。
私は何だか恥ずかしくなってベランダへ出た。
駅近くのこのマンションから、電車の線路が見える。東京というのがおこがましいくらいに田舎のこの街は、高いビルなんて数える程しかなかった。でも、電車が見える線路の先には小高い丘が続いている。
私はこの街が好きだ。というより、この街しか知らない。小学生の時に住んでいた幹太達の居る街の事は、何も覚えてなかったから。
「本当に田舎だよね…」
いつの間にか後ろに立っていた幹太に、私は肩をすくめてそう言った。
「私は、25歳にもなるのに、この街しか知らない。
お父さんが忙しい人だったから、家族旅行もあまりしてないし、家族以外の人と遠出をするのは迷惑をかけそうで何だか怖くて、行っても日帰りがいいところ。
でも、大人になって、たまに思う事があるの…
いつか、昔住んでいた幹太達のふるさとに行ってみたいなって。
断片でしか覚えてないけど、綺麗な街だった。
空が澄んだように青くて、近くに川があったのかな…
ピアノ教室へ続く道や、学校の近くにあった公園、確か私の住んでた家にはキンモクセイの花が庭に咲いていて、そのいい匂いも覚えてる」
幹太は後ろから私を抱きしめる。
息をしてる?って思うくらい幹太はとても静かだった。
「…幹太?」
私は心配になって幹太をそう呼ぶと、幹太は優しくまた私を抱きしめる。
「俺と一緒に行こう…
俺達が出会ったあの場所…
決して悪い事ばっかりじゃなかったあの街に…」
幹太、泣いてる…?
私の首元に何か冷たいものが落ちた。でも、私は何も言わない。お互い、きっと、何かを抱えていて、いつかその重い荷物をおろせる日を待ちわびている。
0
あなたにおすすめの小説
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
☘ 注意する都度何もない考え過ぎだと言い張る夫、なのに結局薬局疚しさ満杯だったじゃんか~ Bakayarou-
設楽理沙
ライト文芸
☘ 2025.12.18 文字数 70,089 累計ポイント 677,945 pt
夫が同じ社内の女性と度々仕事絡みで一緒に外回りや
出張に行くようになって……あまりいい気はしないから
やめてほしいってお願いしたのに、何度も……。❀
気にし過ぎだと一笑に伏された。
それなのに蓋を開けてみれば、何のことはない
言わんこっちゃないという結果になっていて
私は逃走したよ……。
あぁ~あたし、どうなっちゃうのかしらン?
ぜんぜん明るい未来が見えないよ。。・゜・(ノε`)・゜・。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
初回公開日時 2019.01.25 22:29
初回完結日時 2019.08.16 21:21
再連載 2024.6.26~2024.7.31 完結
❦イラストは有償画像になります。
2024.7 加筆修正(eb)したものを再掲載
✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
Short stories
美希みなみ
恋愛
「咲き誇る花のように恋したい」幼馴染の光輝の事がずっと好きな麻衣だったが、光輝は麻衣の妹の結衣と付き合っている。その事実に、麻衣はいつも笑顔で自分の思いを封じ込めてきたけど……?
切なくて、泣ける短編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる