君の左目

便葉

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彼の時間 …13

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私は頼んでいたミックスジュースを飲みながら、幹太の表情を伺った。幹太にとって、うちの両親は一体どういう存在なのだろう。うちの両親が嫌がるように、幹太や他のあの頃の友達も私の親が苦手だったりするかもしれない。
私は当たり障りのない程度に、幹太に伝える事にした。

「今週末ね…
うちの両親が家へ帰ってくるんだ」

幹太の顔色が変わる。私の勘はやっぱり当たっていた。

「とりあえず、彼氏が出来た事は話すつもり。
でも、それが幹太だとはまだ伝えない。だから、心配しないでいいから」

幹太は複雑な表情をして息を吐いた。
でも、私の真っ直ぐな視線をちゃんと受け止めてくれる。

「ごめんな…
寧々のご両親への挨拶は、もう少し待ってほしい。
別に逃げてるわけじゃないんだ。
寧々のご両親の事を考えると、俺はズカズカ心の中へ入って行けない…」

幹太は言葉に詰まった。あの苦悩に満ちた表情が幹太の顔を支配し始める。

「でも、そんな時間はかけないから…
寧々のご両親に許してもらえるまで、俺は諦めないから…」

「許してもらう…?」

幹太は苦笑いをした。でも、それ以上は何も言わない。
私の両親はきっとあの頃のあの時に関わる人達をきっと憎んでいて、幹太はその事に責任を感じているのだろう。
私もその言葉については、もう何も言及しなかった。

その日の夜、私達は、いつもより激しく愛し合った。
明日と明後日は会わないと約束したせいなのか、私の親が帰ってくるせいなのか、何だかよく分からないけれど、幹太は何度も何度も私に印をつけた。
寧々は俺のものだ、何があっても絶対に離さないって、何度も囁きながら。


***  ***  ***


土曜日の朝、私は早い時間に実家に帰ってきた。
たったの二日なのに、幹太と離れる事が辛くて寂しくて、両親が帰ってくるギリギリまで幹太の家で過ごした。
私が家に帰って来て一時間程経った頃、両親が久しぶりに我が家へ帰って来た。

「おかえり」

私はいつもと何も変わらずに二人を迎え入れる。

「ただいま」

お父さんはいつもと同じ笑顔でそう言ってくれたけれど、お母さんは目を細めて私を見ている。

「何?」

私がつっけんどんにそう聞くと、お母さんは笑ってウィンクをした。
きっと、私に恋人ができた事を二人は喜んでいて、その相手は区役所の麻生さんだと勘違いしているのかもと、私は少し不安になった。
でも、私の方からは何も言わない。麻生さんと勘違いしているのならそれはそれでいいと思った。とにかく何事もなくまた千葉の方へ帰ってくれればそれでいい。

両親はいつもと同じように、我が家での時間を過ごした。
あまり無理ができなくなったお父さんは庭いじりに精を出し、働き者のお母さんは、私がいつも手を付けない二階や風呂回りを念入りに掃除する

そして、夕方にかけて、三人で買い物に行く。食材をたくさん買い込んだお母さんは、私のために日持ちするおかずをたくさん作り置きして、冷凍庫に並べて入れた。
いつもと変わらない日常、でも、私だけが変わってしまった。こんな家族との幸せなひと時にも、幹太の事ばかり考えてしまう。幹太に会いたくてたまらない…

私達親子は、久しぶりに三人で食卓を囲んだ。他愛もない会話が続いた後、やっぱりお母さんの方からあの事を切り出してきた。

「寧々、何かお母さん達に話す事があるんじゃない?」

お母さんの顔はもうすでにほころんでいる。お父さんは聞きたいような聞きたくないような何とも言えない顔で私を見ている。

「何の事?」

斎藤さんから何も聞いていないというシチュエーションで考えれば、この流れじゃないとおかしい。

「彼氏ができたんでしょ?」

お母さんの嬉しそうな顔を見ると、私が二十五歳の適齢期の娘だという事を思い知らされる。左目に障害を持っているとはいえ、両親は、やっぱり娘の幸せな結婚を望んでいる。

「お母さんもお父さんも、冷静に聞いてほしい。
確かに、お母さんが言うように彼氏はできたし、今、すごく幸せな日々を送ってる。

でもね、まだ、始まったばっかりなの…
この先、一体どうなるか想像もつかない。
だから、今は、そっとしてほしい。

お母さん達に紹介できる時期が来たら、ちゃんと紹介するから。
だから、まだ、慌てないで。お願いします…」
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