君の左目

便葉

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先のない未来 …1

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小学校の卒業式が一週間後に迫ったある日、優樹菜と雅也と隆志が久しぶりに俺の家へ遊びに来た。


その頃の俺は、前みたいに元気でもやんちゃでもなく普通に毎日を過ごしてた。あの事故からたったのニ年しか経ってなくて、子供特有のすぐに元気になるという仮説はどうやら俺には全く当てはまらなくて、俺は母さん達には悪いと思いながらも、でも、元気が出ないものはマジでどうしようもなかった。

五年、六年とクラス替えはなく担任も変わらず、あの頃のまんまだ。
俺は何回か職員室を訪ねて、寧々が今どうしているのか担任の先生を問い詰めた。

「先生もさっぱり分からないの。幹太、ごめんね…」

何度聞いても同じ答えばかり。俺はある日、校舎裏の花壇を掃除していた校長先生を捕まえて、俺の想いを全部ぶちまけた。

「校長先生、大人って、皆、ズルい。
俺が寧々に大けがを負わせて、寧々にちゃんと謝りたいって思ってるのに、先生達は寧々の今住んでる家の住所を教えてくれません。

子供だからってバカにしてる…
俺は、寧々が今どんな風になってるのか、すごく心配で、寧々に謝りたくてたまらないのに、大人達は誰も何も教えてくれない。

校長先生、お願いします…
俺に、寧々の家の住所を教えて下さい」

俺達のあの事件は、この学校では、いやこの小さな街では有名な出来事だった。
もちろん、校長先生もあの時と変わらないから、全ての事情を知っている。白髪交じりの優しい目をした校長先生は、俺が一生懸命に話す内容を、何度も頷きながらちゃんと聞いてくれた。

「鈴木幹太君!
返事は?」

俺は急に大きな声でそう呼ばれて、慌ててはいと返事をした。

「校長先生は、あの事故以来、幹太君の事をずっと見てるんだぞ」

俺は、あ~と返事をした。そんなの分かってる。あんな事件を起こした犯人だし、先生達が観察してる事はずっと前から気付いていた。

「まだ、元気が出ないのか…?」

思いがけない校長先生の優しい問いかけに、俺の張りつめている心の風船は急激にしぼみ始める。

「渡辺寧々さんの今住んでいる住所は、確かに大人の事情で君たちには教えられない。
幹太君の言うように、大人ってズルいよな。

でも、その大人だって、息ができないくらい苦しんでいるって事を分かってほしいんだ。
寧々さんのお父さんもお母さんも、寧々さんのケガの事で心を痛めて未だに苦しんでいる。

幹太君、よく聞くんだぞ…
何事にもタイミングっていうものが必ずある。
今、幹太君は、寧々さんや寧々さんのご両親にちゃんと謝りたいと思っている。
でも、誰も幹太君に寧々さんの情報を教えてくれない。
そう、それは今がそのタイミングじゃないからだ。
今、幹太君が誠心誠意で寧々さん達に謝っても、それは寧々さん達には何も伝わらないんだ。

いつか、何年先になるか分からないけれど、そういうその時に適したタイミングが必ず来る時がある。
その時にちゃんと謝ればいい…

寧々さんにも、寧々さんのご両親にも、その時なら、幹太君の気持ちがちゃんと伝わるから」

俺の耳に校長先生の話はスーッと入ってきた。
でも、分からない事だらけだ。

「じゃ、先生、そのタイミングっていつ頃ですか?
俺は寧々の事が大好きで、また寧々に会いたいって思ってる。
先生、俺が寧々に会いに行くタイミングはいつですか?
俺は、明日にでも会いに行きたいんだけど…
でも、それは、ダメって事ですよね?」

俺が話している相手は立派な校長先生なのに、何だか唯一俺の事を分かってくれてる大人な気がして、次から次へと質問を並べた。
校長先生、俺を助けて下さいって、心の中で叫びながら…

「じゃ、校長先生が決めていいか?」

俺は藁にもすがる気持ちで大きく頷いた。

「幹太君が、立派な大人になってからがいいな」

大人…? あ~、いつの話だよ。

「立派な大人の意味が分かるか?
ちゃんと仕事をしてお給料をもらって、皆に尊敬されるような大人になる事だ。
その間に、一回も寧々さんに会う機会がなかったら、その時は幹太君から会いに行けばいい。
その時にちゃんと謝ればいいんだ」

「いやだ、先生、長過ぎるよ」

校長先生は大きな声で笑った。

「幹太君、謝りたい気持ちは悪い事じゃない。
ちゃんとここの中で思っていれば、必ずいいタイミングが訪れるから」

校長先生はそう言って、俺の胸を優しく撫でた。

「あと、自分を責めない事。
あれは、どうしようもない事故で、誰も悪くない。
それに、先生は、寧々さんと幹太君がまた友達になれるってそう信じてる。
だから、幹太君も、中学校に上がっても一生懸命何事にも頑張るんだぞ」

小学生の俺にとって、校長先生は一番偉い大人だった。
そんな一番偉い人が、また寧々と友達になれるって言ってくれた。

俺は嬉しくて、校長先生の前で思わず泣いてしまった。
校長先生はそんな俺の頭をポンポンと優しく叩いた。

「頑張るんだぞ、校長先生はいつでも幹太君の味方だからな」

それからの俺は少し元気になれた気がした。
すぐには寧々に会えないけど、必ずいつかは会えるって、校長先生がそう言ってくれたから。
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