君の左目

便葉

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先のない未来 …2

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そんな事があってから一か月くらい過ぎた。
ちょっとだけ元気になった俺を見て、優樹菜達は久しぶりに遊びに来たのかもしれない。

「どうしたの? 三人揃って」

玄関先で三人にそう聞くと、雅也が入っていい?と言って勝手に俺の部屋に入って行く。すると、優樹菜と隆志もお邪魔しま~すと言って、やっぱり勝手に俺の部屋に入って行った。

「何だよ、急に」

俺はちょっと怒っていた。いや、怒るというより照れくさいが正しい。だって、こんな風に四人で集まる事が本当に本当に久しぶりだったから。

優樹菜も雅也も隆志も勝手に部屋に入ったくせに、いざとなったら何も言えなくてモジモジしている。俺はそんな三人を冷めた目で見る。

「何か用があるんだろ?」

すると、優樹菜がバッグから何かを取り出した。

「あのね、皆で、寧々に手紙を書こうって思って。
ほら、たくさんレターセットも持って来た。幹太は怒るかもしれないって雅也達はそう言うんだけど、でも、私は幹太にも書いてもらいたいの!」

何だか優樹菜の方が逆ギレしてる。何で、俺が怒られなきゃならないの?

「手紙って… 住所も分かんないのに?」

俺も負けじとそう言った。
手紙なんて住所が分かんなきゃ書いても意味ないのに。

「それがね…」

優樹菜のその言葉に俺は心臓が飛び跳ねた。優樹菜は住所を知ってる…?

「それが、この間ね、私がうちのママと大喧嘩した時」

「何で大喧嘩したの?」

まだ幼稚園児並みの子どもの雅也が、くだらない質問をした。そんな優樹菜の親子ゲンカなんか全然興味はないのに。

「寧々の事で…」

俺はハッとした。寧々の名前の響きに、俺は未だにドキドキする。

「うちのママって、今六年二組の役員やってるんだけど、よく学校へ来て先生達と会議やら話し合いとかしてて、だから、その度に寧々の住所を聞いて来てっていつもしつこく言ってたの。

そしたら、この間、急にママがキレて、もう寧々ちゃんの事を言わないでって。
私は、それ以上にキレて、何で優樹菜の友達の寧々の話をしちゃいけないのって、
お互い泣きながら大喧嘩…

あんまり私が泣くもんだから、ママが根負けして、うちのママがたったの一個しか知らない情報を教えてくれたんだ」

俺は体を乗りだして優樹菜の話を聞いた。

「住所が分かったのか?」

優樹菜は浮かない顔をして、首を横に振った。
俺はマジでガックリきて、ベッドの上に倒れ込んだ。じゃ、何にし来たんだよ…

「今の住所は分かんないけど、前に住んでた街は寧々のお母さんから聞いた事があるって。
東京にあってお父さんの地元の街で、うちのママが言うには、きっと、またその街に住んでるんじゃないかって」

優樹菜は持参したレターセットをベッドに並べ始める。

「細かい住所は分かんない。
うちのママもその地域の名前しか聞いてなかったから、この間、ネットで調べたら区の名前は分かった。東京都本条区城元だけなんだけどね。
でも、寧々のお父さんの名前で送ったら、もしかしたら着くかもしれないって」

「寧々達がそこに住んでればだろ?」

冷静な隆志がそう呟いた。

「でも、いいじゃんか!
いちかばちかでもいいから、何もしないよりは私は何かしたい。
あの時、あの場所にいたメンバーで、寧々に手紙を書きたい。

…寧々、ごめんねって」

俺は胸が苦しかった。
あの時あの場所にいたメンバーは、皆同じ傷を負っている。
特に、優樹菜は本当の親友だったから、俺と同じくらいに苦しんでいるのが分かった。
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