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彼の真実 …1
しおりを挟む幹太との旅行を明日に控えた金曜日の夜に、いつもより遅い帰宅の幹太は少し浮かない顔をしていた。
「寧々、明日なんだけど、午前中の出発は無理になった」
私は少しだけホッとした。幹太の口からキャンセルの単語が出そうで怖かったから。
「急な仕事が入って、午前中は会社に行かなきゃならなくて、どんだけ急いでもお昼の二時は過ぎると思う」
私はうんうんと頷いた。
「全然、大丈夫だよ。
明日は隣町のホテルにさえ着けばいいから、別に夕方の出発でも全然構わないよ」
幹太は疲れた顔で微笑んだ。
「ごめんな…
本当はその日にサプライズを考えてたんだけど、それもどうなるか分かんなくなった」
「サプライズ? え? 何?」
幹太はスーツを脱いで部屋着に着替えると、私の質問を聞いてないふりをしてソファに寝そべった。
「もう、ズルいよ。気になるじゃん」
私はソファの前に座り込んで、幹太の耳元に聞こえるようにそう言った。
「でも、サプライズって言ったらダメだろ?」
「もう、言ってるじゃん」
幹太はどう見ても面白がっている。私の単純すぎる反応が可笑しくてしょうがないらしい。
「ねえ、何? 何のサプライズ?」
幹太はソファに寝転びながら、私を抱き寄せた。私のうなじやくちびるには何度もキスはするくせに、肝心な答えは言ってくれない。
「そんなに知りたい?
ま、でも、言った方がいいのかな…
あまり刺激的なのもちょっと怖いもんな」
幹太は私の消えた記憶の事を言っている。この旅行がターニングポイントになると、二人ともそれは感じていた。
「優樹菜に会えるぞ…
もしかしたら、雅也や隆志にも」
幹太のその言葉だけで、私の記憶の蓋がカタカタ鳴り出した。でも、それは幹太には教えない。
「優樹菜に…?
優樹菜は、明日、私が来る事を知ってるの?」
幹太は笑顔でうんと頷いた。幹太の穏やかな笑顔から、優樹菜も私に会う事をきっと喜んでいる。
「もうそれ以上は言わない。
じゃないと、サプライズにならないから。
でも、あんまり興奮しない事。
皆に会えるかもって、頭の中に入れておいて」
私は幹太に抱きついた。嬉しいのか怖いのかよく分からない感情が私を飲み込んでいく。でも、それがどんな感情だとしても、私も優樹菜に会いたい。
私のたった一人の親友と呼べた友達。私達は本当に仲良しで、いつも二人一緒だった。まだ、私の左目が見えた頃…
「優樹菜達は…
私の目の事、知ってるのかな…?」
私の左目は幹太とつき合うようになってから、居心地が良すぎるのかあまり頑張らなくなった。それはきっと私の心の問題で、私が前ほど左目の事を考えなくなったからだと思う。ありのままの姿を受け入れてくれる恋人がいる。だから、左目が見えない事を負い目に感じる暇がない。幹太がそれも含めて愛してくれるから。
でも、優樹菜達は、何も知らないかもしれない。事故に遭った事は知っていても、私の左目が視力を失くした事は多分知らないはず。そう考えただけで怖くなった。
「私は優樹菜と親友だったって思ってるけど、それは、まだ私が健常者の時の話で、今の私を見たら、優樹菜達、引いちゃうかもしれない」
優樹菜達に会うのなら、出来る事なら昼間に会いたい。昼間の明るい時間なら、私の左目は普通の動きをしてくれる。
でも、夜だったりしたら、右目とは違う動きをする。見えていないからしょうがないんだけど、でも、変わってしまった私をあまり知られたくなかった。
「寧々…
寧々が優樹菜の事を本当の親友だって思ってるように、優樹菜だって寧々の事を本当の親友だって思ってる。
親友だったら、その人に何があってもどんな事が起こっても、絶対、受け入れる。
寧々だって、そうだろ…?
優樹菜だってそうだよ…」
幹太はソファから体を起こして、私の顔を両手で挟んでぷにゅぷにゅっとした。
「優樹菜達は、ううん、特に優樹菜は、寧々が思っている以上に、寧々の事を知ってるよ。
だって、一番大切な親友が、ある日突然、優樹菜の前から姿を消した。
あの頃は、俺達はまだ小学生で子供だったけど、皆、何かしら心の中は傷ついて、寧々に会いたいってずっと思ってた。
寧々が、今、優樹菜に会いたいって思うように、俺達はずっとそう思ってたんだ」
私の中の優樹菜は、いつも可愛くて優しくて姉御肌で、でも泣き虫で、きっと本当の性格は私より弱いのかななんて思った時もあった。
優樹菜との思い出が走馬灯のように頭の中を駆け巡る。私の記憶の蓋はカタカタと勢いを増して騒ぎ出す。
「寧々、大丈夫か?」
幹太はそんな私の変化を察して、包み込むように抱きしめた。
「無理だったら、無理ってちゃんと言うんだぞ。
優樹菜達にはいつでも会えるんだから…
あ~、やっぱり、今回の旅行は、俺達の過ごした街を散策するだけにしよう。
優樹菜達に会うのは、次回でいいし。
寧々の体調が心配だから、ゆっくりと進めていこうか?」
幹太は私の背中をさすりながら、そう聞いてきた。
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