君の左目

便葉

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彼の真実 …2

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「ううん、優樹菜に会いたい…
あの頃の友達に会いたい…
幹太、私の記憶は、どのみち近い将来、必ず顔を出す。
それは、なんとなく分かるんだ。
もう、こんな状態はイヤ…
早く、自分の中で、真実を見つけたい。
皆の記憶と同じ記憶を共有して、昔みたいに笑い合いたい」

幹太は私に優しくキスをした。
そのキスの切なさに涙が出そうになる。

「寧々…
一つだけ、これだけは頭に入れといてほしい…
寧々の頭の中に戻ってきた記憶がどんな記憶だったとしても、俺は、寧々の手を絶対に離さないから。
二度と離さない… 
何があっても絶対に離さない…
俺は、それだけのために、寧々に会えない時間を過ごして来た。
それだけは約束するよ。
だから、寧々もしっかり覚えといて…」

幹太の肌の温もりは、私に癒しの雨を降らせてくれる。私達は何度も体を重ね合ってお互いをお互いのものにして、この先に待ち受ける困難にも負けないくらいの絆を築いてきたつもりだった。
そして、私は、神様に何度も祈った。
どうか、私達にこれ以上の困難を与えないで下さいと…


***  ***  ***



そして、次の日の土曜日、私と幹太は、夕方の新幹線に乗る事ができた。
今日の天気は曇り空で、私の中ではどんよりとした世界が広がっていたけど、明日と明後日は晴れマークが並んでいる。
私にとって天気はとても大切な事で、お日様に会えると思うだけで最高に気分がよかった。

幹太は新幹線に乗った途端、寝てしまった。今、幹太の会社は、東京都が取り仕切る大きなプロジェクト事業に携わっていて、幹太もそのメンバーに入っているらしい。まだ、下っ端の幹太は、雑務に追われる日々が続いていた。

私は幹太の寝顔をずっと見ている。
新幹線のガタガタという音が幹太にとっては揺りかごみたいで、子供の時のような無垢な表情がとても可愛いらしい。
私は帰りの新幹線に乗る二人を想像するのがちょっと怖かった。この幸せな時間がその時も続いていてほしい。
あまり深く考えないようにして、私も幹太の隣で目を閉じる。
幹太の右手に私の左手を巻き付けて、幹太の温もりを肌で感じながら。

私達が降り立った駅は、私には馴染みのない駅だった。
幹太の地元というか、私も以前住んでいた街は、この駅より四つ先に行かなければならない。でも、幹太はこの街にある高校に通っていたらしい。だから、この街の事はよく知っていた。

「思ってたより大きな駅でびっくりしちゃった」

私は幹太の地元の街はぼんやりと覚えている。どちらかと言えば田舎で、のんびりと時間が過ぎていた印象がある。

「俺達田舎者は、映画を観たり、洋服を買う時は、この街まで出てきてた。
ま、俺らの街ではあるあるの話だよ」

「デートとか?」

私は何げなくそう聞いてみた。
あ~、幹太の高校生の姿を見たかったな、なんて思いながら。

「デート? 
そうかもな、ま、俺はそんなのでここに来た事はないけど」

私はもうそれ以上、話を膨らませるのはやめた。幹太のキラキラした高校生活を聞いたら悲しくなるだけだから。

「着いたよ。今日、俺らが泊まるホテル」

ビジネスホテルを思い描いていた私は、ホテルの豪華さにちょっと驚いた。駅近くにもっと安そうなホテルはたくさんあったのに。

「まだ、ゴールデンウィーク前だけど、それでも高かったでしょ?」

今回の旅の代金は幹太が全部払ってくれた。私も出すとは言ったんだけど、幹太は要らないの一点張りで、私は幹太に甘える形になった。

「全然高くないよ。寧々、俺が高給取りだって事、忘れたか?」

幹太はそう言うと、私の肩を抱き寄せてそのホテルへ入って行く。

チェックインを済ませボーイさんに案内された部屋は、見晴らしのいい角部屋だった。ツィンのベッドじゃなくて、ダブルのベッドというところが幹太らしくて笑っちゃったけど。

「寧々、今夜はこのホテルにあるレストランを予約してるんだ。
着くのが遅くなったし、今夜は俺達の記念日にしたいから」

「記念日? え? 何の?」

幹太はボーイさんが帰ったのを確かめると、私を自分の膝の上に座らせた。

「寧々がやっとこの街に帰って来てくれた日」

「まだ帰ってないよ。明日だよ」

幹太は笑いながら、私を強く抱きしめた。

「いいの。俺にとっては今日も明日も一緒だから」

幹太の性格が本当に好き。いい事も悪い事もみんな全てを丸く囲ってくれる。

「寧々がこの俺達の住んでいた場所に戻って来てくれた事が、俺にとっては最高にハッピーなんだ。
それに、寧々にとっては記憶の問題があって、普通の人なら怖くて近づけない場所なのに、寧々はこうやって来てくれた」

私は幹太の頬を撫でる。

「それは、幹太が側にいてくれるからだよ。
25歳の春に、幹太が私を見つけてくれた。
そこから全てが始まってるんだから…」
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