君の左目

便葉

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彼の真実 …4

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「車は、幹太の家の車を使うんじゃなかったっけ?」

私はあまり深く考えないで、幹太にそう聞いた。レンタカー代もバカにならないって思ったから。

「うん、そう思ってたんだけど、でも、やっぱり止めた」

レンタカー屋に着いた幹太は、あらかじめ予約していたらしくあっという間に手続きを終わらせた。前払いのシステムで一万円ほどの料金をカードで決済している。店員さんから必要事項の説明を受けた後、私達は小さめのセダンタイプの車に乗り込んだ。

慣れた手つきで颯爽と車を走らせる幹太を横目で見ながら、私は深いため息をついた。

「ねえ、幹太、お家の車、借りれなかったの…?」

幹太はバックミラーを自分の位置に合わせながら、チラっと私の方を見る。

「借りる以前の話で、実は、今日、帰る事も話してない」

ちょうど信号待ちで止まったタイミングで、幹太は私の右手をしっかりと握った。

「今回の旅は、できれば、俺と寧々だけの旅にしたいと思ったんだ。
寧々がこの場所に帰ってきた事を知るとするなら、それはあの時のメンバーだけで、後は、誰にも知られたくない。

二回目、三回目は、盛大に騒いでもいいし、俺の親に会ったり、千夏に会ったりしてもいいと思う。
でも、今回は、俺達だけの旅にしよう…
いいだろ…?」

私は外の景色を黙って見ていた。
幹太の気持ちは痛い程によく分かる。私が見世物にならないよう、私を守りたいと強く思っている。
あの時の私の事故をどれだけの人が憶えているのかさっぱり見当はつかないけど、でも、幹太は私が傷つく事がないように、そういう他人との接触は避けたいと思っている。
私は幹太の左手を優しく握り返した。

「うん、分かった…」

もうそれ以上の言葉は要らない。
だって、もう、私達は時間が止まったままのこの街に足を踏み入れたのだから。

「まずはじめは、この街の観光スポットに行こうと思ってる。
寧々も小さい頃に行ったかもしれない場所。
この街のシンボルになってる大きな滝を見に行こう」

「滝?」

私は車窓からの流れゆく景色を眺めながら、頭の中を整理し始めた。今、幹太が選んで走っている道路もあまり私には馴染みのない道で、道沿いに続く街並みもあまり覚えがなかった。

「滝… 行った事あるのかすらも分からない。
今、見える街並みも全く馴染みがなくて、私、もしかしたら、ほとんどの事を忘れてるのかもしれない」

幹太は窓を少し開けた。

「この街並みは俺達が住んでた地域じゃないから、覚えてなくて当たり前だよ。
滝に関しても、家族で行ってなけりゃ覚えてないのはしょうがないし、それより、すごい綺麗な場所で、この近辺ではパワースポットになってるんだ。
他の県の人達も、何か幸運を求めてやってくるらしい」

幸運という言葉に心が惹かれた。どんな神様でもいいから、私達の味方になってほしい。

その滝がある公園は、観光スポットになっていると言うわりには観光客はまばらだった。駐車場にもほとんど車は停まっていない。あまり人がいない事は私達にとってはラッキーな事で、幹太と手を繋いでそのスポットへ向かった。

「すごい…」

森を抜けると、その滝は突然現れた。
滝つぼの周りに小さな公園が設けられてあって、その中には小さな売店もあった。

「この大きな滝から流れ落ちる水が、あの川に繋がってるんだ…」

滝から飛んで来る小さな水しぶきが、髪や皮膚を潤してくれる。確かに空気の質感が違う気がした。神聖なる森の神様に包まれているような。

「何か、思い出した?
子供の頃、来た事はない?」

幹太は目を閉じたまま立ち尽くしている私を見て、心配になったのかそう聞いてきた。

「ううん、覚えてない…
私の中では、初めてこの滝を見た気がしてる。
もし、来てたら、絶対に覚えてると思うから、来てないんだと思う」

私はスマホを取り出して、何枚も写真を撮った。お母さん達にも見せてあげたい。私達が以前住んでいたあの街には、こんなに素敵な場所もあるんだって。

そして、私達は、公園の中にある小さな売店で買い物をした。お土産用のお菓子にキーホルダーくらいしか売っていない。でも、私は、そのお店の中心に設けられたコーナーに目が釘付けになった。幸運の壺と書いたお守りが置いてある。
私はそのコーナーに貼られているポスターを興味津々に読んだ。

「幹太、これ、買いたい」

幹太は苦笑いをしている。

「買うの?」

私は大きく頷くと、幹太と私の分を二個買った。

「幸せに導いてくれるものなら何でも買いたい。
それに、この壺は悪い物を全部吸い込んでくれるんだって。
この滝つぼのように、全部を洗い流してくれるって」

幹太は愛おしそうに私の事を見ている。藁にもすがりたいという気持ちは幹太にもちゃんと伝わっている。
駐車場へ戻り車に乗り込むと、私はすぐにさっき買ったお守りを自分のバッグにつけた。幹太の分も幹太のリュックにぶら下げる。

「大丈夫…
私達にはここの神様がついててくれるから、何も怖くない…」
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