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彼の真実 …15
しおりを挟む私は、レースのカーテンから差し込む柔らかい朝の光で目が覚めた。そして、時計を見て愕然とした。もう八時を過ぎている。
「…幹太?」
私はあまりの静けさに幹太の姿を探した。すると、ベッドボードの上にホテルのメモ用紙が置いてある。そのメモ用紙をちゃんと見ると、それは幹太からの置き手紙だった。
「寧々、ごめん
本当は昨日伝えるべきだったんだけど、
今日の午前中に優樹菜に会う事になってる
でも、俺は、色々用事があるから、優樹菜と寧々で会ってくれる?
10時に優樹菜がそこに迎えに行くって
俺は、駅の改札で14時に待ってます 幹太」
私は頭がまだ回っていない。優樹菜が会いに来る?
私はとりあえずシャワーを浴びた。昨日、泣き過ぎたせいで、顔も目もパンパン過ぎて、こんな最悪な顔で優樹菜に会いたくない。
本当は半分以上は乗り気じゃないけれど、でも、シャワーを浴びていると幼い頃の優樹菜の顔が頭に浮かんできた。
今の私は、自分の事なのにしっかりと冷静に自分の事を考えられない。あの事故の事や、幹太の事、そして、幹太とのこれからの事。
私の記憶のままの優樹菜だったら、何て言うだろう…
大切なたった一人の親友だった優樹菜は、どういう風にアドバイスをしてくれるだろう…
そんな事を考え出したら、無性に優樹菜に会いたくなった。だって、私にとって優樹菜は、後にも先にもないたった一人の親友だから…
私は部屋をチェックアウトするために一階のロビーに下りた。10時にはまだ早いけれど、部屋で時間を過ごすより優樹菜の到着をここで待ちたい。
「チェックアウトをお願いします」
忙しい朝の時間からずれたせいか、人の数はまばらだった。ホテルの人は私の鍵と部屋番号を確認すると、笑顔を見せてこう言った。
「精算はお連れの方が先に済ませてらっしゃいます。
あと、渡辺様のお友達の方が、そこのソファの所でお待ちになっています」
私はその言葉に心臓が高鳴った。
何て言えばいいんだろう、もうすでに胸が熱くなるこの気持ちを…
私は勇気を出して後ろを振り返った。
優樹菜は…
優樹菜も待ちきれなかったのか、ソファの前に立って私の事をずっと見ている。
「…寧々?」
あ、優樹菜の声だ…
優樹菜は何も変わっていなかった。身長が伸びてちょっと大人になっただけ。私の記憶の中の優樹菜と、同じ優樹菜がそこにいた。
私の胸がいっぱいになるように、優樹菜はもうすでに泣いていた。
あの事故の詳細を知った今、優樹菜の苦しみも痛いほど伝わってきて胸が苦しくなる。
「…寧々、やっぱり寧々は寧々のままだ。
可愛くて、朗らかで、私の大好きだった寧々のまま…」
私も涙が止まらない。
優樹菜に会いたかった…
ずっと言えずに飲み込んでいた私のささやかな願いは、十五年の月日を経てやっと夢のように実現した。
優樹菜はあっという間に私に歩み寄り、私の事を抱きしめた。
小さい頃も優樹菜は私にそうしてくれた。理由を聞いたら、寧々は抱き心地がよくっていい匂いがするからって、そう言ってたっけ。
ひとしきり私を抱きしめた優樹菜は、溢れる涙を拭って私のスーツケースを持ってくれた。
「そんなに時間がないから、このホテルの地下のカフェに行こう。
このホテルだったら、駅にもすぐだし、ギリギリまで一緒にいれるから、ね?」
さっきまでボロボロに泣いていた優樹菜は、いつもの優樹菜の笑顔に戻っている。笑った時に見える八重歯も何も変わってなくて、私は今日、優樹菜に会う事を勧めてくれた幹太に心から感謝した。
優樹菜が連れて来てくれたカフェは、ジャズが流れる大人の雰囲気漂うお洒落な喫茶店だった。私達は奥の窓側の席に案内され、何時間喋っても大丈夫だねって二人で目配せをして笑った。
優樹菜はメニュー表を見て、目を丸くして私を見た。私も優樹菜と一緒にメニュー表を覗きこんで唖然とする。
なんと、コーヒーが一杯1200円だったから。でも、そんなハプニングさえ、私達二人にとっては笑いの種にしかならない。マジでとかあり得ないとか言いながら、二人はひとしきり笑った。
「でも、今日はいい日だから、こんな日はコーヒーに千円かけても惜しくない。
もうせっかくだから、私、ケーキセットに2千円出しちゃう」
こんな風に明るく笑う優樹菜と、一緒にお茶できる幸せを私は一生忘れない。
これも一つの記念日。親友とやっと再会した大切な日…
他愛もない二十五歳の女子の話が一通り終わった後、優樹菜は静かに私の顔を見ていた。溢れ出る思いを何から私に伝えようかと、一生懸命考えながら。
私も、優樹菜が話し出すまで、静かに待った。
あの日、急にいなくなったのは私の方で、残された優樹菜達の気持ちは到底計り知れない。記憶を失くしていた私は、ただただ優樹菜達に申し訳なかった。
「寧々、あの時の話をしてもいい…?」
優樹菜は小さく息を吐き、私にそう聞いてきた。私はうんと小さく頷いた。
「寧々… あの日、あの事故があって、あの場に居合わせた私達四人は、それぞれが色々な思いを抱えて今日まで生きてきた…」
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