君の左目

便葉

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彼の真実 …14

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「愛してない…? 
俺が…? 寧々を…?」

言葉に詰まっている幹太を見るのは辛かった。
でも、私はやっぱりこう思う、幹太の愛は償いの愛だと…

「俺は寧々を愛してる…
言葉にすれば簡単過ぎるけど、でも、俺は…」

幹太は私を抱きしめる手を下に垂らした。そして、途方に暮れたような目でゆっくりと私の目を見る。

「幹太は…
私に大けがを負わせた事で、何年も何年も自分を責めてきた。
幹太の私への愛は、それは、償いの愛だよ…
でも、それが悪いわけじゃないの…
自分でも分かってるんだ…
変にひねくれて物事を真っ直ぐに見れなくなってる事を。

でも、私は…」

こんな事、人に話した事もない私の弱みを幹太に話したら、また幹太を傷つけてしまう。でも、私は、全てにおいて弱い人間だという事を認めないといけない。
だって、本当に、弱い人間なんだから…
私は溢れ出る涙を拭って、幹太を見た。

「幹太…
私は、憐れみとか同情とか、そんなのが一番嫌…
だって、片目が見えないのって障害者の中でも一番軽い方で、右目がある程度見えてる私は、法律上で言うと、本当は障害者じゃない。

笑っちゃうよね…
そんな事ばっかりにこだわって、左目が見えてないって事がばれたくなくて、人の親切が本物の親切だって思えなくて、いつの間にか自分の殻に閉じこもるようになってた。

そしたら、幹太が突然現れて、両目が見えてた頃の明るい寧々の事を覚えててくれて…
今は、左目は何も見えないけど、でも、幹太の頭の中に両目が見えていた元気な頃の寧々が住んでいる事が嬉しくて…

幹太が私の事を心配するのは、今に始まった事じゃないし、幹太が心配して優しくすることは私の中では当たり前の事だったから、素直にそれを受け入れる事ができた。
……だから、なおさら」

私はベッドから立ち上がり、ホテルの部屋の窓から外を覗いた。
ここから見える夜景は、私の右目にもちゃんと映っている。右目だけの世界かもしれないけど、でも、私は少しの不自由だけで普通の二十五歳の女性と同じように暮らしている。

「あの事故の記憶が戻って、幹太達と遊んでいて起こった事故だったって分かって…
でも、あの時に幹太の手が離れてしまったっていう事実よりも… 私は…

私は、幹太がその罪を背負って、私への罪を償うために生きてきたっていう事の方が、なんだか、すごくショックだった…
純粋な愛情じゃない…
歪んだ愛情だよ…
幹太は、私に負い目を感じて、悩んで苦しんで、私に謝る事だけを考えて生きてきた。
私はそんなもの何も関係ないところで、幹太と再会して、幹太に愛されてたってそう思ってた。

ごめんね……
私って、今の私って、こんなに最低な人間なの…
幹太… ごめんね…」

自分の一番のコンプレックスは、左目が見えない事じゃない。
こんなにひねくれてしまった自分の性格。左目が見えない事をどうして隠したがったのか、それは、他人の不憫がる視線が怖かったから。

気にしていないふりをしているだけで、本当は、左目が恋しかった。ううん、今でも恋しくてたまらない。両目で見ていた満天の星や、真っ青な空、両親の笑顔や、大好きだった読書も、本当は恋しくて恋しくてたまらない。
その事を思い出したら、私の涙は止まらなくなる。
いつも、自分の部屋でこっそり流していた涙は、今、幹太の前で容赦なく溢れ出た。

「寧々、泣くなよ…」

幹太はそう言いながら、私を力ずくで抱きしめた。私の涙が治まるまで、背中を優しくさすってくれる。
私は幹太の胸にすっぽり包まれて、少しずつ落ち着きを取り戻した。
幹太は私を支えたまま、またベッドに腰かける。

「寧々、ちょっと休んだ方がいいよ…
俺と、一緒に寝たくないんだったら、俺はそのソファに寝るからさ。

俺は…
俺の気持ちを、もし天秤ではかれるなら、寧々を本気で愛する気持ちの方が絶対的に勝ってる。
それは、昔も今も変わらないよ…
寧々が一番分かってるだろ…?」

私は幹太に背中をさすられているせいで、急激に眠気が襲ってくる。私の頭も体も心もクタクタに疲れていた。
幹太の温もりと匂いに包まれて、緊張の糸がぷっつりと切れたみたい。

「寧々、もう寝るんだ…
これから先の事は、またゆっくり考えよう…」

私は眠りの谷に落ちていく。
幹太とのこれからに不安を感じながら、でも、その思いを封じるように睡魔は私を深い眠りに導いていく。
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