君の左目

便葉

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彼の真実 …16

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優樹菜の目にはまた大粒の涙が溢れ出す。
私はゆっくりと優樹菜の話を聞いた。昨日の幹太と同じで、優樹菜も苦しみながら生きてきた事はちゃんと分かってる。

「寧々…
あれは事故だったの…
誰も悪くない、悪い子なんて一人もいない…
あの場所に居た私がそう言うんだから間違いはない。

でも、私達は子供だった…
目の前で大切な友達が崖の下に落ちて大けがをして…
自分を責めるなって大人達はそう言うけど、私達はまだ純粋な子供で、皆それぞれで後悔する場面がたくさんあって、ううん、それより、みんな寧々の事が大好きだったから、悔やんで悔やんで、そういう日々をずっと過ごしてきた」

優樹菜は泣きながら、でも、たまに私に笑顔を向ける。
私に話す事で気分が良くなってくれればいいのだけれど…

「寧々、本当にごめんね…
寧々の親友だったのに、寧々がケガをして一番辛い時に、私はそばにいてあげれなかった。
今は、あの事故の出来事よりも、その事が一番悔しい…」

私は首を横に振った。

「優樹菜、そんな事気にしないでいいから…
それより、私の方こそ謝りたい。
うちの親が、皆に住所や私の居所を教えなかった事。

本当に、ごめんね…
それがなかったら、うちの親がちゃんと住所を教えていたらって、考える事もあるけど、でも、それはもう過ぎた事で、だから、私に謝らないで…

私は、もう大丈夫だから」

私はそう言って微笑んで見せた。だって、本当にそう思ってる。お母さん達が皆に住所を教えていればって…

「それと、寧々、実はね…
昨日の夜中に幹太から電話があったんだ。
幹太は人にあれこれ話す人間じゃなくて、だから、私は、幹太の話す短い言葉から推測するだけなんだけど…

幹太が寧々と再会して、私は自分の事のように嬉しかった。
寧々が記憶を失くしてるって事も、その時にちょっとだけ聞いた。
それで… それでね…」

優樹菜は幹太の話になった途端、嗚咽のように泣き出した。私が記憶を失くしている間、幹太の事をちゃんと見てきた優樹菜にだけ、きっと流せる真実の涙…

優樹菜は必死に息を整えながら、たまに笑顔を見せ、ひと息大きくついてからゆっくりと話し出した。

「寧々、一つだけ聞いてほしい…
幹太は、きっと、自分の事は何も言わないはずだから。
だから、あの日、あの場所に居た私が、寧々に伝えたい。
幹太がどれだけ寧々の事を想っていたか、大人の言葉で言えば、どれだけ愛していたかを…」

優樹菜は小さく息を吐いて、コーヒーを飲んだ。私もつられてコーヒーを飲む。あの事故の時に何が起きたのか、私は知る由もなかったから。

「あの事故を幹太は自分のせいだって、子供の時からそう言ってた。
みんなは自分の事を責める必要はないって、あれは、俺が寧々の手を離してしまったからなんだって」

私は昨日の幹太の言葉をぼんやり思い出していた。
俺が手を離したんだ…
幹太の悲痛な思いが胸を締め付ける。

「確かに、幹太が必死に握っていた寧々の手が、幹太の手から離れるのを私達は見てた。だけど、それはしょうがない事だった。
だって、大人の人でさえ寧々を救えたかなんて分からない。
あれは、本当にどうしようもなかったの…

でもね… 寧々、聞いて」

優樹菜は真っ直ぐに私を見た。あの場面を思い出しているような虚ろな目から、また大粒の涙が溢れ出す。

「あの時、寧々は風に揺られて、あっという間に崖下に落ちていった。
私は、あまりの驚きと恐怖で、腰が抜けて地べたに座り込んで、寧々~って叫ぶ事しかできなくて、もう怖くて怖くて、ブルブル震えてた。

そしたら…

そしたら、幹太が、寧々の名前を叫びながら、崖下に向かって転がりながら下りていって…
すごい絶壁の崖なのに、幹太は、まだたった10歳の幹太は、寧々を助けるために、道もない真っ暗な崖下に消えて行った。

夕方にかけて遊んでたから、辺りは薄暗くなってて、それでいて天気も悪くて、寧々と幹太が消えた途端、大粒の雨が降り出して…」

優樹菜はそう話しながら、コーヒーカップを持つ手がブルブルと震えている。

「雅也も隆志も私と同じで、二人とも茫然としてた。

でも、雅也がすぐに携帯から119番に電話して、泣きながら、早く来て、二人を助けて下さいって、叫んでた。

私もハッとして、自分の家に電話して、早く早く、二人を助けに来てって…」

私の目からも大粒の涙がこぼれ落ちる。

「…幹太は、そんな事、何も言わなかった。
ただ、俺を信じて手を差し伸べた寧々を助けられなかったって…
そんな、一緒に崖に落ちていったなんて、何一つ言ってくれなかった…」

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