君の左目

便葉

文字の大きさ
48 / 69

彼の真実 …16

しおりを挟む


優樹菜の目にはまた大粒の涙が溢れ出す。
私はゆっくりと優樹菜の話を聞いた。昨日の幹太と同じで、優樹菜も苦しみながら生きてきた事はちゃんと分かってる。

「寧々…
あれは事故だったの…
誰も悪くない、悪い子なんて一人もいない…
あの場所に居た私がそう言うんだから間違いはない。

でも、私達は子供だった…
目の前で大切な友達が崖の下に落ちて大けがをして…
自分を責めるなって大人達はそう言うけど、私達はまだ純粋な子供で、皆それぞれで後悔する場面がたくさんあって、ううん、それより、みんな寧々の事が大好きだったから、悔やんで悔やんで、そういう日々をずっと過ごしてきた」

優樹菜は泣きながら、でも、たまに私に笑顔を向ける。
私に話す事で気分が良くなってくれればいいのだけれど…

「寧々、本当にごめんね…
寧々の親友だったのに、寧々がケガをして一番辛い時に、私はそばにいてあげれなかった。
今は、あの事故の出来事よりも、その事が一番悔しい…」

私は首を横に振った。

「優樹菜、そんな事気にしないでいいから…
それより、私の方こそ謝りたい。
うちの親が、皆に住所や私の居所を教えなかった事。

本当に、ごめんね…
それがなかったら、うちの親がちゃんと住所を教えていたらって、考える事もあるけど、でも、それはもう過ぎた事で、だから、私に謝らないで…

私は、もう大丈夫だから」

私はそう言って微笑んで見せた。だって、本当にそう思ってる。お母さん達が皆に住所を教えていればって…

「それと、寧々、実はね…
昨日の夜中に幹太から電話があったんだ。
幹太は人にあれこれ話す人間じゃなくて、だから、私は、幹太の話す短い言葉から推測するだけなんだけど…

幹太が寧々と再会して、私は自分の事のように嬉しかった。
寧々が記憶を失くしてるって事も、その時にちょっとだけ聞いた。
それで… それでね…」

優樹菜は幹太の話になった途端、嗚咽のように泣き出した。私が記憶を失くしている間、幹太の事をちゃんと見てきた優樹菜にだけ、きっと流せる真実の涙…

優樹菜は必死に息を整えながら、たまに笑顔を見せ、ひと息大きくついてからゆっくりと話し出した。

「寧々、一つだけ聞いてほしい…
幹太は、きっと、自分の事は何も言わないはずだから。
だから、あの日、あの場所に居た私が、寧々に伝えたい。
幹太がどれだけ寧々の事を想っていたか、大人の言葉で言えば、どれだけ愛していたかを…」

優樹菜は小さく息を吐いて、コーヒーを飲んだ。私もつられてコーヒーを飲む。あの事故の時に何が起きたのか、私は知る由もなかったから。

「あの事故を幹太は自分のせいだって、子供の時からそう言ってた。
みんなは自分の事を責める必要はないって、あれは、俺が寧々の手を離してしまったからなんだって」

私は昨日の幹太の言葉をぼんやり思い出していた。
俺が手を離したんだ…
幹太の悲痛な思いが胸を締め付ける。

「確かに、幹太が必死に握っていた寧々の手が、幹太の手から離れるのを私達は見てた。だけど、それはしょうがない事だった。
だって、大人の人でさえ寧々を救えたかなんて分からない。
あれは、本当にどうしようもなかったの…

でもね… 寧々、聞いて」

優樹菜は真っ直ぐに私を見た。あの場面を思い出しているような虚ろな目から、また大粒の涙が溢れ出す。

「あの時、寧々は風に揺られて、あっという間に崖下に落ちていった。
私は、あまりの驚きと恐怖で、腰が抜けて地べたに座り込んで、寧々~って叫ぶ事しかできなくて、もう怖くて怖くて、ブルブル震えてた。

そしたら…

そしたら、幹太が、寧々の名前を叫びながら、崖下に向かって転がりながら下りていって…
すごい絶壁の崖なのに、幹太は、まだたった10歳の幹太は、寧々を助けるために、道もない真っ暗な崖下に消えて行った。

夕方にかけて遊んでたから、辺りは薄暗くなってて、それでいて天気も悪くて、寧々と幹太が消えた途端、大粒の雨が降り出して…」

優樹菜はそう話しながら、コーヒーカップを持つ手がブルブルと震えている。

「雅也も隆志も私と同じで、二人とも茫然としてた。

でも、雅也がすぐに携帯から119番に電話して、泣きながら、早く来て、二人を助けて下さいって、叫んでた。

私もハッとして、自分の家に電話して、早く早く、二人を助けに来てって…」

私の目からも大粒の涙がこぼれ落ちる。

「…幹太は、そんな事、何も言わなかった。
ただ、俺を信じて手を差し伸べた寧々を助けられなかったって…
そんな、一緒に崖に落ちていったなんて、何一つ言ってくれなかった…」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~

馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」 入社した会社の社長に 息子と結婚するように言われて 「ま、なぶくん……」 指示された家で出迎えてくれたのは ずっとずっと好きだった初恋相手だった。 ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ ちょっぴり照れ屋な新人保険師 鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno- × 俺様なイケメン副社長 遊佐 学 -Manabu Yusa- ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 「これからよろくね、ちとせ」 ずっと人生を諦めてたちとせにとって これは好きな人と幸せになれる 大大大チャンス到来! 「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」 この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。 「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」 自分の立場しか考えてなくて いつだってそこに愛はないんだと 覚悟して臨んだ結婚生活 「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」 「あいつと仲良くするのはやめろ」 「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」 好きじゃないって言うくせに いつだって、強引で、惑わせてくる。 「かわいい、ちとせ」 溺れる日はすぐそこかもしれない ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 俺様なイケメン副社長と そんな彼がずっとすきなウブな女の子 愛が本物になる日は……

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜

葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在 一緒にいるのに 言えない言葉 すれ違い、通り過ぎる二人の想いは いつか重なるのだろうか… 心に秘めた想いを いつか伝えてもいいのだろうか… 遠回りする幼馴染二人の恋の行方は? 幼い頃からいつも一緒にいた 幼馴染の朱里と瑛。 瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、 朱里を遠ざけようとする。 そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて… ・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・ 栗田 朱里(21歳)… 大学生 桐生 瑛(21歳)… 大学生 桐生ホールディングス 御曹司

☘ 注意する都度何もない考え過ぎだと言い張る夫、なのに結局薬局疚しさ満杯だったじゃんか~ Bakayarou-

設楽理沙
ライト文芸
☘ 2025.12.18 文字数 70,089 累計ポイント 677,945 pt 夫が同じ社内の女性と度々仕事絡みで一緒に外回りや 出張に行くようになって……あまりいい気はしないから やめてほしいってお願いしたのに、何度も……。❀ 気にし過ぎだと一笑に伏された。 それなのに蓋を開けてみれば、何のことはない 言わんこっちゃないという結果になっていて 私は逃走したよ……。 あぁ~あたし、どうなっちゃうのかしらン? ぜんぜん明るい未来が見えないよ。。・゜・(ノε`)・゜・。    ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 初回公開日時 2019.01.25 22:29 初回完結日時 2019.08.16 21:21 再連載 2024.6.26~2024.7.31 完結 ❦イラストは有償画像になります。 2024.7 加筆修正(eb)したものを再掲載

✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

Short stories

美希みなみ
恋愛
「咲き誇る花のように恋したい」幼馴染の光輝の事がずっと好きな麻衣だったが、光輝は麻衣の妹の結衣と付き合っている。その事実に、麻衣はいつも笑顔で自分の思いを封じ込めてきたけど……? 切なくて、泣ける短編です。

処理中です...