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彼の未来 …2
しおりを挟む「昨夜は…
あまりにもたくさんの情報が頭の中に流れ込んできて、わけも分からないままに色んな事を喋り過ぎたって思ってる…
一日経って、優樹菜ともたくさん話せて、客観的に自分の過去や今、そして未来を考えてみた。
ちゃんと考えなきゃって思ってたけど、ちゃんと考える必要もなかった。
だって、私は幹太が好き…
今までも、これからも…
許すとかそういう問題じゃないの…
だって、私はきっと、子供の頃から許してるよ。
許すって言うから変な風に聞こえるけど、まずは怒ってないから。
怒ってないから、許すも何もないの、分かった…?」
幹太は目を細めて私を見ている。
昨日、私が泣きながら話した私の本心は、幹太の胸にちゃんと刻まれているはずだから。
幹太はそんな人…
私がこれ以上、幹太を傷つけたくないって思っている以上に、幹太は私の事を何があっても傷つけない。
だって、優樹菜が最後にこう教えてくれた。
「幹太と寧々がこういう風に再会して愛し合っている事が、幹太にとっては奇跡なんだから…」
記憶を失くして過去に囚われずに生きてきた私には、到底、想像もできない事。
子供の頃から十字架を背負って、それでも、私を愛して捜してくれた幹太を、今度は私が癒してあげたい。
自分の左目に対する負い目やわがままは、本当にバカみたいなちっぽけな事だと今ならそう思える。
今は、命があった事だけに感謝したい。
幹太と再び巡り合う事ができた最高の奇跡に…
しばらく私をジッと見つめていた幹太が、やっと口を開いた。
「…俺は、実は、二度、寧々に恋に落ちたんだ」
私が目をパチパチさせてポカンとしていると、幹太は恥ずかしそうにまた私の手を握った。
「あの区役所に寧々が働いてるって事を、俺は、実は知ってたんだ。
区役所を訪れる前の日の夜、俺は全然眠れなかった。
十五年ぶりに寧々に会う事が、嬉しいやら怖いやらで…
でも、あの大きな古時計の前に立っている寧々を見つけた時、俺の頭に雷が落ちたかと思った。
寧々はすごく綺麗で、子供の頃のまんま大人になったみたいだった。
すぐに寧々だって分かったし、俺、大人になった寧々の姿に釘付けだった。
こんな事、改めて話すのも超恥ずかしいけど、でも、ちゃんと話しておきたいんだ」
幹太は自分の肩に頭をのせている私を、またさりげなく引き寄せる。
「大人になった寧々に、一瞬で一目ぼれをした。
その瞬間、過去の、いや子供の頃の寧々への想いなんて全部忘れた。
あの日、あの場所で、俺の中で、また寧々への片思いが始まったんだ。
子供の頃の思い出の中の寧々じゃなくて、今、目の前に立っている大人の綺麗になった寧々に俺の心は全部持っていかれた。
あの古時計の前に立っている寧々を見た瞬間から、新しい恋が始まったんだ…」
私は幹太の愛の告白に心が震えた。
私だって、あの日、区役所で見かけた素敵な人が幹太だと知って胸が踊った。大人になった幹太に一瞬で恋に落ちた。
そして、幹太の優しさに涙が溢れた。
「…ほら、また、泣く。
寧々の涙は、枯れる事がないんだな。
俺は昨日の夜に、一生分の涙を流した気がしてるけど…
しばらく、涙は出ない、いや、もう涙はこりごりだよ」
私は幹太にもたれながら、車窓に流れるオレンジ色に染まった空を見ていた。
今日のこの幸せなひと時を、私は一生忘れない…
「幹太こそ、しばらく寝た方がいいよ…
優樹菜が、昨日の夜はほとんど寝てないはずだよって教えてくれた」
「なんか、優樹菜と寧々の会話を想像しただけで、マジで怖いよ。
優樹菜の奴、なんか変な事喋ってないよな…?
だって、改札の所でも、訳わかんない事大声で言ったりしてたからさ」
私はその場面を思い出して笑った。
「優樹菜は、幹太の事が大好きで心配なだけなの。
でも、優樹菜って、子供の頃と何も変わってなくて、めちゃ嬉しかった」
「あいつは、変わらな過ぎだよ」
私はまた笑った。
昔ながらの友達の関係がこんなに素敵なものだなんて初めて知った。幹太のおかげで、私にたくさんの幸せが舞い降りる。
「ねえ、寧々…
こんな場所で言うのもなんだけど…」
幹太はまた更に私の手を力強く握りしめた。
「……結婚しようか」
私は心臓がぴくんと鳴った。
「もう、俺は、寧々と何があっても離れたくないんだ…
俺達は、運命のいたずらみたいなそんな訳の分からない力で、ずっと離れ離れだっただろ…?
お互いがお互いの過去にちゃんと向き合えて清算できたのなら、もう離れたくない。
…ってか、俺は、もう、寧々なしじゃ生きていけない」
私の心臓は、喜びからなのか安堵からなのか、ドキドキが止まらない。そして、また涙が次から次へと溢れ出した。
「ほら、また、寧々の目から涙が出てきた」
幹太はそう言って笑った。
私の涙がイエスの答えだと確信して。
「寧々が嫌だったら、しょうがないけど…」
あまりにも私が泣くもんだから、幹太の意地悪な部分が顔を出す。
「……結婚したい。
結婚するに決まってるじゃん」
私は小さな子どもが泣くみたいに、本当にどうやっても涙が止まらなかった。新幹線が空いててよかった。私達の席の前後は空席だったから。
でも、幹太は私の涙が止まるのを待ちながら、小さくため息をついた。
「うちの両親でしょ…?」
私はすぐにそのため息の訳が分かった。
だって、私だって、二人を納得させる自信がないから。
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