君の左目

便葉

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彼の未来 …9

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私はもう一度お父さんに頭を下げた。
本当はお母さんにも伝えたい事がいっぱいあったけど、今日はやめておく。
以前、幹太が話していたタイミングというものがあるのだとすれば、お母さんへのタイミングはきっと今日じゃない。でも、聞く耳を持ってくれているお父さんには、まだ伝えたい事があった。

「お父さん、お母さんにこれだけは伝えてほしい…

私は、もう過去は忘れた。
幹太は、私に一生懸命謝ってくれたけど、私は幹太の事を憎んでない。
あの時、一緒にいた友達だって、あの街だって、あの小学校だって、一度も憎いなんて思った事はない。
小学校の時に大好きだった友達に会えない事の方がずっと寂しかった。

大人になって、大好きだった幹太にまた会えて、優樹菜とも話ができて、あの街やあの小学校に行けた事の方が、私にとっては、事故の詳細を思い出した事よりも遥かに大切で嬉しかった。

だから、事故に遭った事や、そのせいで左目が見えなくなった事よりも、今では、幹太の方が大切なの…

もう、大切なものを失いたくない…
左目は失ったけど、幹太が居てくれればそれでいい…
左目以上に、幹太は私にとって、とっても大切な人なの…

お父さん… よろしくお願いします…」

お父さんも泣いていた。
私にとっての十五年と、家族にとっての十五年の重みは明らかに違う事は分かっている。
でも、もう、過去に縛られてほしくない。私も幹太も、新しい未来へ向かって歩き始めてるから。

お父さんは涙を手で拭い、静かに私に微笑んでくれた。

「そうだな…

お父さんもお母さんも、左目を失った寧々の未来だけを案じて生きてきた。
案じるだけで、寧々に幸せを与える事はできなかった。

でも、寧々がその幸せを見つけたのなら、その相手が幹太君だったとしても、お父さんもお母さんも反対する理由なんてないし、反対しちゃけない。
だって、二人とも立派な大人なんだから。
お父さん達が反対しても、二人は結婚するのは分かってるからね」

お父さんは潤んだ瞳で、私に目配せをしてまた笑った。

「寧々、今日はもう帰りなさい…
来週、二人がこの家に来る事を楽しみにしてるよ。
お母さんの事はお父さんに任せて、まだ陽が高い内に東京へ帰りなさい」

私は小さく頷いた。
簡単にはいかない… 今はそれを身をもって感じている。
私は東京へ帰る前に、お母さんが寝ている二階へ上がってみた。閉じられている寝室のドア越しに、お母さんへ声をかける。

「お母さん、今日は帰るね…
また、遊びに来るから…

…お母さん、愛してるよ」

また涙が溢れ出る。子供の頃、左目の事で嫌な事があった時に、必ずお母さんは私を抱きしめてこう言ってくれた。
…寧々、愛してる、寧々はお母さんの大切な宝物だよ。

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