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彼の未来 …8
しおりを挟む「…そういえば、寧々が東京の病院に転院する頃に、校長先生と警察の人がお父さんを訪ねてきた事があった。
その時に、幹太君が寧々を必死に助けくれたちゃんとした経緯を知ってね。
警察の人は、人命救助として幹太君を表彰したいという事だった。
でも、その頃のお父さんは、まだ全てを丸く見る事ができなくて、勝手にしてくださいと言ったんだ。
その後に、担任の先生から聞いた話では、幹太君のご両親がその表彰を辞退したとの事だった。
息子は人命救助どころか、寧々ちゃんを助けられなかったって、毎日泣いてるのにって…」
私が肩を震わせて泣いていると、お父さんが優しく肩を撫でてくれた。そして、泣きじゃくる私を見て小さく息を吐く。
「寧々の運命の相手は、幹太君なのか…?」
私は下を向いたまま、小さく頷いた。
「幹太君じゃなきゃ、ダメか…?」
私はもう一度頷いた。本当はちゃんと声に出してうんと言いたかったけれど、さっき聞いた幹太の子供の頃の話が切な過ぎて、涙が止まらない。
「寧々が決めた相手なら、お父さんは反対しないよ」
私はティッシュで涙を拭くと、顔を上げて咎めるような視線をお父さんに投げつけた。
「反対しないとかそんなのは要らない。
幹太の事を認めてほしい…
幹太の事をちゃんと見てほしい…
私の命を救ってくれたのは、間違いなく幹太なんだから。
だから、幹太の事を好きになって…
私が愛する大切な人は、 とってもいい人で、お父さん達に謝る事だけを思って十五年を過ごしてきた。
幹太の謝罪を受け入れて下さい…
どうか、お願いします… お願い、お父さん…」
幹太を救ってあげて下さい…
それはお父さんとお母さんにしかできない事だから。
お父さんは頭を下げる私に、覚悟を決めたように分かったと言った。
「でも、お母さんは、簡単にはいかない。
お母さんは、幹太君のしてくれた事も何も知らないから」
私は止まらない涙をまたティッシュで拭きとった。そして、幹太のために背筋をピンと伸ばす。幹太のためだけじゃない、お母さんのためにも。
「来週の週末、幹太とこの家を訪れるつもり。
お父さんとお母さんに、幹太がちゃんとした挨拶をしたいって。
お母さんにも会ってもらいたい…
会ったら、きっと、幹太の誠実さを分かってもらえると思うから…」
お父さんはうんうんと何度も頷いた。
「お母さんがこんな風になったのは、お父さんの責任でもある。
寧々の事故の事をちゃんと伝えてない。
寧々の記憶が戻った今、母さんに事故の詳細を伝える事はお父さんの仕事だ。
…でも、寧々も見ての通り、お母さんの心の傷は深い。
お父さんも努力するよ。
あの時、寧々の事故の後、臭い物に蓋をするように、辛い事柄は全部あの街に置いて、逃げるように東京に戻ってきた。
あの街や幹太君達は臭い物でも何でもないのに、そういう風にお母さんに思い込ませたお父さんが悪いんだ。
お母さんに話してみる。
でも、簡単にはいかない。時間がかかるかもしれない。
来週、お母さんが幹太君に会ってくれるかは分からないけど、お父さんなりに努力するよ…」
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