君の左目

便葉

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彼の未来 …14

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そして、お父さんからの質問に、幹太は誠心誠意丁寧に答えた。
そんな幹太の言葉を、お父さんは目を細めて聞いている。
私はそんな二人を後にして、お母さんのいる二階へ向かった。寝室に入ると、窓を開けたままベッドに腰かけ外を見ているお母さんは、見るのが辛くなるほど小さく見えた。

「お母さん…」

私が後ろからそう呼ぶと、お母さんは振り返り疲れた顔で私を見た。
私は込み上がる熱いものを必死に飲み込んで、お母さんの目の前に座る。

「お母さん…
私、何があっても、幹太と結婚する…
ううん、結婚したい…
だって、私の命を救ってくれたのは、幹太なんだよ…

左目は見えなくなったけど、でも、こうやってお母さん達の近くにいて笑って過ごせて、そして、今は人を愛する喜びを知る事ができた。
あの時、死んでしまってたら、こんな風に笑って時を刻めなかった。

それにね、お母さん…
もし、あの時あんな事故に遭わなかったとしても、私は幹太と結婚してた。
初恋の人なの… 
そして、その気持ちは今でも変わらない…」

お母さんは寂しそうに微笑んだ。きっと、お母さんはお母さんで、蓄積された過去の苦しみと自分なりに向き合って前へ進もうとしてくれている。私はそう思う事した。お母さんの事は責めたくない。たとえ結婚を許してくれなかったとしても。


私と幹太はあまり長居する事もなく、私の両親の家を後にした。
帰りの電車の中でも幹太の口数は少なかった。私は分かっていた事だけれども、それでも幹太のやるせない顔を見るのは辛い。
私にできる事は、幹太の心を癒す事だけ…
今は言葉より幹太の手を優しく握るだけにした。幹太の私の母への思いが、いつか必ず届く事を祈りながら。
家に帰り着くと、幹太は意を決したように私を抱きしめた。

「寧々、俺、しばらく寧々の両親の家へ通うよ」

「え? 通うって?」

「週末は時間を作って遊びに行く」

私は幹太の胸の中から顔を上げ、幹太の目を見つめた。

「無理だよ…
仕事だって忙しいのに、あんな遠い所まで」

幹太は笑いながら、また私を抱きしめる。

「大丈夫だよ…
門前払いになってもいいんだ。
それぐらいしなきゃ、寧々のお母さんの傷ついた心を開く事なんかできない。
寧々は来なくていいから、俺が一人で行く」

私は家に着いたせいか、気が緩んで涙が滝のように溢れ出す。
こういう事を決意した幹太が可哀想で、そして、心の扉の鍵をいまだに見つけられないお母さんも可哀想で、私は胸の痛みで息をする事さえ苦しかった。

「寧々も苦しいと思うけど、しばらくは俺の好きなようにさせて…
俺は、やっぱり、寧々のお母さんの笑顔が見たいんだ。
子供の頃の寧々のお母さんの記憶は、とっても優しくて穏やかでいつも笑顔だった。
俺がその笑顔を奪ってしまったのなら、俺がその笑顔を取り戻したい。
いつになるか分からないけど、でも、そうしなきゃ俺の気が済まないんだ。

お母さんが結婚を許してくれたら、すぐに籍を入れよう。
そうなるように努力するから、しばらく俺の事を見守っててほしい」

私は泣きながら頷いた。
お母さんだっていつかは必ず分かってくれる… 
だって、私の愛する人は、こんなにも私のお母さんの事を大切に想ってくれて、お母さんの優しい笑顔を知っている。

私は分かったの返事の代わりに、幹太に優しいキスをした。
キスをしてもし足りないほど、幹太への愛情があふれ出る。
今、やっと優樹菜の言っていた意味が分かった。
幹太を守るという事は、幹太を無条件で永遠に愛するという事だと…

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