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花冷えの頃 …6
しおりを挟む流人は港で皆の歓迎を受けた後、きゆの運転する車に院長夫妻と一緒に乗り込んだ。
車の中では、院長夫婦の止まらぬ質問に流人は一生懸命に丁寧に答える。
ボストンで何を学びたいのか、自分の目指す医療とは何かとか、院長夫妻は目を細めて流人の話を真剣に聞いていた。
「じゃ、自宅へ行って、ちょっと片付けをしてきます」
きゆと流人は院長夫妻を病院で降ろし、あの人里離れた自宅へ向かった。
流人は早くきゆと二人っきりになりたくてしょうがない。
なぜなら、島に着いてからというものきゆのそっけなさにちょっと落ち込んでいたから。
流人の自宅に入りきゆが窓のカーテンを開けた途端、流人は後ろからきゆを抱きしめた。
「きゆは俺が帰ってきても嬉しくないんだろ…?
それか、2月に島に帰って来れなかったから怒ってる?」
きゆは振り向き、流人の顔を見て優しい笑みを浮かべた。
「そんなことこれっぽっちも思ってないよ。
それより、もう私と流ちゃんの事はこの島のビッグニュースになってるんだから。
私達が話す一語一句も全部、皆が耳を澄まして聞いてるんだよ。
だから、ちょっとクールな女を装ってみただけ」
きゆは流人を抱きしめた。
「流ちゃん、おかえり…
ずっと、いい子で待ってたんだから…」
「ごめんな…
中々、帰って来れなくて…
でも、ちゃんと迎えに来ただろ?
俺は約束はしっかり守る男なんだ」
流人はそう言いながら、今度は流人の方から力強くきゆを抱きしめる。
きゆを抱きしめながら、流人は窓から見える壮大な海と真っ青な空の景色を眺め更に心に大きく誓った。
「きゆ、東京へ帰る日の月曜の朝に、婚姻届、役場に出しに行くぞ」
きゆは抱きしめられながら、小さく頷いた。
でも、ずっと我慢していた事柄を聞きたくて、つい小さな声で口走ってしまう。
「流ちゃん、院長先生と奥様はなんて?」
流人はきゆを抱きしめる力をふっと少しだけ抜いた。
「いつかは……
いつかは、分かってくれるだろ……」
「……うん」
きゆはもうこれ以上何も望まないと自分に言い聞かせた。
流人と結婚できる……
それだけでも、私にとっては奇跡に近い出来事なんだから…
でも、いつかは、分かってもらいたい…
いつかは、認めてもらいたい…
だって、流人の両親の事を私は大好きなんだもの…
でも……
院長先生、奥様、ごめんなさい…
流人さんと結婚する私を許して下さい……
必死に泣くのを堪えているきゆはとても不憫だった。
流人はそんなきゆを力強く抱きしめ、そして優しくキスをする。
「必ず、いつかは認めてくれるって。
だって、あの二人は、きゆの事は大好きなんだから…」
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