4 / 4
加恋はささやかな夢を見る
④
しおりを挟む「加恋ちゃん、どうしたの?
もっともっと綺麗になって、俺の息の根を止める気だな。
喜んで受けようじゃないか。
加恋ちゃんの魅力に負けて死んでしまうのなら、俺の本望だ」
待ち合わせ場所で私を見つけると、トオルさんは一気に私モードに入った。
私モードとは、職場で見せるトオルさんとは全く別の人格らしい。
私は、職場モードのトオルさんはあまり知らないけれど…
「トオルさん、驚かないで、怒らないで、私の告白を聞いてほしい…
あ、まず、先に謝っておくね…
ごめんなさい…」
レストランに入り、食事が出てくる前に私はいきなりこう告げた。
トオルさんの涼し気な顔が、一瞬でこわばるのが分かった。
「え…
ちょっと待って…
告白を受ける前に聞いていい?
別れたいとか…?」
そうだと思った。
この世が終末を迎えたようなどん底の表情は、きっと別れを切り出されると思った顔。
「全然、そんなんじゃないよ!
別れるなんて、絶対ないから安心して。
そんなのに比べたら、全然大した事ないよ」
トオルさんの口元がほころび出した。
あ~、良かったみたいな、ホッとした顔に変わる。
「実は… 私…
モデルの仕事を辞めてなくて、なんと、すごい仕事のチャンスをもらった。
だから…
トオルさん、私、ニューヨークへ行く!」
東京タワーが間近に見えるこのレストランは、実は、個室はこの部屋しかないらしい。
三ツ星レストランでいつも満席のはずなのに、トオルさんの急な予約でも必ずこの個室は空室で私達を迎えてくれた。
それはトオルさんがこの店にとって特別なお客様だから。
その証拠に必ず店のオーナーが笑顔で挨拶に来た。
でも、気の毒な事に、今日のオーナーが挨拶に来たタイミングは最悪な時間帯だった。
私の突然の告白に言葉を失っているトオルさんの元へ、オーナーは満面の笑みで機嫌よくやって来た。
「中山様、今日もこのお店をご贔屓にいて頂き、本当にありがとうございます。
今日はスペシャルディナーを用意しておりますので、この後に…」
丁寧に説明をしているオーナーを、トオルさんは無慈悲にも手で制した。
話すのを止めて、さっさと出て行けと…
私はこの時初めて私モードでないトオルさんの裏の顔を見た。
いや、裏の顔ではない、きっと、仕事モードの冷徹な顔…
甘々でデレデレのトオルさんの顔しか知らない私は、このギャップに不謹慎だけどちょっとだけ胸がキュンとした。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
疎遠だった幼馴染が彼女と別れて私に会いに来るようになったのだけど
くじら
恋愛
図書館の定位置には、いつも黒縁メガネの女生徒がいる。
貴族同士の見栄の張り合いや出世争いから距離を置いて穏やかに過ごしていたのに、女生徒の幼馴染が絡んでくるようになって…。
俺の可愛い幼馴染
SHIN
恋愛
俺に微笑みかける少女の後ろで、泣きそうな顔でこちらを見ているのは、可愛い可愛い幼馴染。
ある日二人だけの秘密の場所で彼女に告げられたのは……。
連載の気分転換に執筆しているので鈍いです。おおらかな気分で読んでくれると嬉しいです。
感想もご自由にどうぞ。
ただし、作者は木綿豆腐メンタルです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~
ささゆき細雪
恋愛
五年前、内乱の混乱のなかで姿を消した最愛の妃・白瑤華(はくようか)。
彼女を失った皇帝・景玄耀(けいげんよう)は、その後ただ一人を想い続けながら執務に追われていた。そんなある日、書類に彼女の名前を発見し、居ても立っても居られなくなる。
――死んだはずの彼女が、生きている?
同姓同名かもしれないが確かめずにいられなくなった彼は地方巡察を決行。そこで、彼によく似た幼子とともに彼女と再会、地方官吏として働く瑤華と、珠児(しゅじ)を見て、皇帝は決意する――もう二度と、逃がさないと。
「今さら、逃げ道があると思うなよ」
瑤華を玄耀は責めずに、待ちの姿勢で包み込み、囲い込んでいく。
秘された皇子と、選び直した愛。
三人で食卓を囲む幸福が、国をも動かすことになるなんて――?
* * *
後宮から逃げ出して身を引いたのに、皇帝の溺愛は止まらない――これはそんな、中華風異世界ロマンス。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ
海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。
あぁ、大丈夫よ。
だって彼私の部屋にいるもん。
部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる