イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる

便葉

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加恋はささやかな夢を見る

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「加恋ちゃん、どうしたの?
もっともっと綺麗になって、俺の息の根を止める気だな。
喜んで受けようじゃないか。
加恋ちゃんの魅力に負けて死んでしまうのなら、俺の本望だ」

待ち合わせ場所で私を見つけると、トオルさんは一気に私モードに入った。
私モードとは、職場で見せるトオルさんとは全く別の人格らしい。
私は、職場モードのトオルさんはあまり知らないけれど…

「トオルさん、驚かないで、怒らないで、私の告白を聞いてほしい…
あ、まず、先に謝っておくね…
ごめんなさい…」

レストランに入り、食事が出てくる前に私はいきなりこう告げた。
トオルさんの涼し気な顔が、一瞬でこわばるのが分かった。

「え…
ちょっと待って…
告白を受ける前に聞いていい?

別れたいとか…?」

そうだと思った。
この世が終末を迎えたようなどん底の表情は、きっと別れを切り出されると思った顔。

「全然、そんなんじゃないよ!
別れるなんて、絶対ないから安心して。
そんなのに比べたら、全然大した事ないよ」

トオルさんの口元がほころび出した。
あ~、良かったみたいな、ホッとした顔に変わる。

「実は… 私…
モデルの仕事を辞めてなくて、なんと、すごい仕事のチャンスをもらった。

だから…
トオルさん、私、ニューヨークへ行く!」


東京タワーが間近に見えるこのレストランは、実は、個室はこの部屋しかないらしい。
三ツ星レストランでいつも満席のはずなのに、トオルさんの急な予約でも必ずこの個室は空室で私達を迎えてくれた。
それはトオルさんがこの店にとって特別なお客様だから。
その証拠に必ず店のオーナーが笑顔で挨拶に来た。

でも、気の毒な事に、今日のオーナーが挨拶に来たタイミングは最悪な時間帯だった。
私の突然の告白に言葉を失っているトオルさんの元へ、オーナーは満面の笑みで機嫌よくやって来た。

「中山様、今日もこのお店をご贔屓にいて頂き、本当にありがとうございます。
今日はスペシャルディナーを用意しておりますので、この後に…」

丁寧に説明をしているオーナーを、トオルさんは無慈悲にも手で制した。
話すのを止めて、さっさと出て行けと…
私はこの時初めて私モードでないトオルさんの裏の顔を見た。
いや、裏の顔ではない、きっと、仕事モードの冷徹な顔…

甘々でデレデレのトオルさんの顔しか知らない私は、このギャップに不謹慎だけどちょっとだけ胸がキュンとした。



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