イケメンエリート軍団の籠の中

便葉

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ここは天国でしょうか?

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 私、松村舞衣は、きっと一生分の運を使い果たしてしまったらしい。




 バイト仲間の沙紀の家に泊まった時に、あの募集要項を何気なく見つけてしまった。


「ねえ、沙紀、アバンクールヒルズTOKYOって知ってる?」


「知ってるよ~
 丸の内の一等地にあるあの超リッチなビルでしょ?
 あそこのビルに入ってる飲食店の時給にビックリしたことがあるもん。
 次元が違うよ、一般庶民には縁のない世界…」


 舞衣は沙紀に借りたiPadで検索した“EOC”ことIT関連企業“EARTHonCIRCLE”の女子社員募集要項を沙紀に見せた。


「沙紀がバイトはもう嫌だってぼやいてたから何となく検索してたら、凄いのがヒットした…」


 沙紀はもう夢中でその要綱を読んでいる。


「大卒以上で30歳まで、2か国語以上を話せること…

 お給料の金額は提示されてないけど、ネットの噂では凄い金額になってる。
 外資系でビルの高層階にあるってだけで、なんか、きっと、凄い世界みたい…」


「ネット情報では、その会社は外資系でニューヨークに本社がある東京支社で、男性のみの職場で、そこの男性は一流エリートでその上イケメンらしい。
 なんか社長は女性らしいよ。
 そこの支社には女性社員はたった一人で、その一人が定年退職で辞めたための募集だって」


 舞衣はこの夢のような職場に思いを馳せながら、ため息をついた。


「沙紀、応募すれば?
 ダメ元でいいじゃん、応援する」


「マイマイも一緒じゃなきゃ嫌だ。
 だって、うちら、一応、外語大学出て英語はなんとか話せるし、もう一カ国語は韓国語があるじゃん」


 舞衣は、韓国語と聞いてフッと笑った。


「KPOPに嵌まったのも、ここで役に立つとは思わなかったね」


 沙紀はよっしゃーみたいな顔をして、舞衣の顔を覗きこんだ。


「韓国アイドルって言っても、舞衣のタイプはビジュアル低めの人だけどね」


 舞衣は沙紀のほっぺを軽くつねった。


「しょうがないでしょ。私は才能重視なんだから。ダンスが一番上手い人が好きなの。
 でも、それより、そこって一人しか採用されないんだよ、私も受けちゃっていいの?」


「いいよ、いいよ。
 だって、受かるはずなんてないんだから」






 今、舞衣は、アバンクールヒルズTOKYOという、そびえ立つビルの正面玄関の前に立っている。

 何がどうなってこのビルの高層階で働くことになったのか、今でも信じられない。

 EOCから私にだけ一次試験通過通知がきて、都内にあるコンサート会場のような場所でその会社の二次試験があった。そこに集まっている女性達は容姿端麗の美人ぞろい。大学在学中に買い揃えたリクルートスーツに身を包んでいた私は、そのまま回れ右をして帰ろうかと何度も悩んだほど。
 でも、気持ちを奮い立たせて、手渡されたアンケートに記入をして面接を受けた。

 あれって面接だったのかよく分からない……

 舞台の上に一人座っているのはソフィア高市という女社長で、私達はまるでベルトコンベアーに乗せられたお人形のように流れながら順番が来るとその社長の前で名前を言うだけだった。

 という事で、あっという間に二次試験は終わった。
 そして、それから一週間後に、私宛にメールで採用通知が届いた。

 舞衣はそのビルの前で、何回もほっぺをつねった。そして、プリントアウトした採用通知と初出勤の日程とその他もろもろの書類に、もう一度目を通す。


「舞衣、大丈夫…
 あなたは、EARTHonCIRCLEに採用された…
 嘘でも、夢でも、間違いでもない…

 勇気を出して前へ進んで、一歩を出して…
 そうじゃなきゃ、時間に遅れるよ~~~」


 舞衣は何度も自分にそう言い聞かせて、大きな重厚感のある外国映画に出てきそうな回転扉の方へ歩いて行く。
そして、振り向きもせず人の波についていく。

 とにかく、エレベーターに乗らなくちゃ…

 そのビルのエントランスは、舞衣が知っている高級ホテルのどのエントランスよりも豪華だった。でも、今の舞衣には、そこを堪能するほどのそんな余裕はない。
 とりあえず、一番多くの人が並んでいるエレベーターホールに乗る事にした。さりげなく、舞衣は近くにいる女性の服装をチェックする。

 結構、普通の格好してるんだ…

 舞衣は女性の服装に気を取られていたせいで、何も確認せずに皆が乗るエレベーターに乗ってしまった。そして、乗った直後にそのエレベーターから飛び出した。

 25階まで??

 舞衣はすぐにフロアの階数を確認すると、そのエレベーターは26階までしかいかない。


「すみません、27階に行くにはどうすればいいんでしょうか?」


 舞衣は恥ずかしさと戦いながら、隣に立っている女の人に聞いてみた。


「27階以上のフロアは別の専用エレベーターがあって、あの先に大理石でできたカウンターが見えると思うけど、そこのコンシェルジュに聞いてみたらいいかも」


「あ、はい、分かりました。ありがとうございます」


 舞衣は慌ててそのカウンターへ向かった。


「す、すみません…
 あの、“EARTHonCIRCLE”に今日の9時に来るように言われている松村といいます。
 あ、あの、どうやって27階へ行けばいいのでしょうか?」

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