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過去
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公園からの帰り道、海人はずっと考えていた。
今日のような僕の行動は、これから先もあるかもしれない。
だからこそ、その前に、ひまわりには真実を話したかった。
これ以上、自分自身に嘘はつけないし、ひまわりには特にそうでありたいと思ったから。
でも、ひまわりは、こんな僕のことを受け入れてくれるだろうか…
お風呂を済ませた海人は意を決して、ソファに座っているひまわりの隣に少し距離を置いて腰かけた。
戸惑いを隠せないひまわりの笑顔が、海人の胸を突く。
「ひまわりさん、あの… 僕は…」
すると、ひまわりは急に立ち上がり台所へ行くと、コップに注いだ冷たい麦茶を持って来てくれた。
「まずは飲んで。海人さん、今日は疲れてるはずだから」
「ありがとう」
海人は、その麦茶を一気に飲み干す。こんな時にも海人を気遣ってくれるひまわりの優しさに背中を押され、海人はもう一度話す事を始めた。
「ひまわりさん、僕と初めて会った時の事を覚えてる?」
海人がそう聞くと、ひまわりは小さく頷いた。
「僕は、その、きっと驚くと思うけど…
僕はひまわりさんに会う前は、実は、全く違う時代で生きてたんだ」
「違う時代?」
ひまわりはやはり混乱している。
「そう違う時代…
僕はここに来る少し前まで、1944年の激動の時代を過ごしていた…
硫黄島という場所で敵と戦っていたんだ。
日本軍は窮地に追い込まれてたけど、僕は国家や仲間を信じて必死に戦ってた。
その時、真っ赤な光が僕を包んで、僕はどこかに飛ばされた感じがしたんだ。
一瞬、頭が真っ白になって、そして、目を開けたら、ひまわりさんが僕を覗き込んでた」
「え? 嘘? 信じられない…」
ひまわりの頭の中に、あの日の光景が走馬灯のように甦る。
「僕も信じられなかったよ。
混乱して気がおかしくなりそうだった。
何が何だか分からなくて、夢を見てるのかと思ったくらい…
でもあの時、僕の近くにひまわりさんがいてくれた。
ひまわりさんだけが、僕にとってのただ一つの現実で救いだったんだ」
海人はひまわりの目を見つめて、そう話した。
「戦争で生きるか死ぬかの生活をしていた僕に、天使が舞い降りたと思ったくらいだった…」
海人は今でもそう思っている。
「僕の事を、頭がおかしくなったって思ったろ?」
すると、ひまわりは大きく深呼吸をしてからこう言った。
「ううん…
実は、本当は、私もずっと変だと思ってた。
だってあの日、誰も居なかったはずのベンチに大きな轟音と稲光がして、そしたらそこに海人さんがいた。
一瞬の出来事で、あまりの驚きに声も出なかったくらい。
あの日、あの屋根付きのベンチは嵐のような天気のせいで薄暗かったから、本当は私が気がつかなかっただけで、最初から海人さんは座ってたって…
…座ってたって、そう思い込むようにしてた」
ひまわりの声は震えていた。
「ひまわりさん、違うんだ。僕は過去からやって来た人間なんだ。
どうやったら戻れるのかも、このままここに居れるのかも何も分からない。
ひまわりさんを巻き込んでしまって、本当に申し訳ないと思ってる…」
海人はひまわりの目を見るのが怖かった。
こんな僕のことを怖がるに違いない…
ひまわりは、海人の告白にかなり動揺していた。
何かがあるとは思ってはいたけれど、過去から来たなんて想像すらできない。
でも、ひまわりは軍服をまとっていた海人を思い出した。
真っ黒に汚れていて、目はうつろだった。
思い返せば思い返すほど、海人の告白は真実味を帯びている。
記憶喪失の方がどんなにかよかっただろう…
「私は時空を超えるとか、過去から来たとか、そういうのはあまり信じない人間なんだけど、でも、やっぱり考えれば考えるだけそうなんじゃないかって思ってしまう。
あの時の海人さんの格好や、自動車に驚く海人さん、コンビニで困惑している海人さんとか、思い起こせば、全部それにつながってるから…」
海人は黙って聞いていた。
そして、こんな想像もつかない話を聞いてひまわりが怯えていないか、それだけが怖かった。
「でも、私は何で海人さんを放っておけないんだろう…?
海人さんが嘘をついてるとは思えない。
私は、たぶん、海人さんに会ったその時から不思議と信用してた。
離しちゃいけないって、勝手にそう思った」
海人はずっとひまわりを見つめている。
今日のような僕の行動は、これから先もあるかもしれない。
だからこそ、その前に、ひまわりには真実を話したかった。
これ以上、自分自身に嘘はつけないし、ひまわりには特にそうでありたいと思ったから。
でも、ひまわりは、こんな僕のことを受け入れてくれるだろうか…
お風呂を済ませた海人は意を決して、ソファに座っているひまわりの隣に少し距離を置いて腰かけた。
戸惑いを隠せないひまわりの笑顔が、海人の胸を突く。
「ひまわりさん、あの… 僕は…」
すると、ひまわりは急に立ち上がり台所へ行くと、コップに注いだ冷たい麦茶を持って来てくれた。
「まずは飲んで。海人さん、今日は疲れてるはずだから」
「ありがとう」
海人は、その麦茶を一気に飲み干す。こんな時にも海人を気遣ってくれるひまわりの優しさに背中を押され、海人はもう一度話す事を始めた。
「ひまわりさん、僕と初めて会った時の事を覚えてる?」
海人がそう聞くと、ひまわりは小さく頷いた。
「僕は、その、きっと驚くと思うけど…
僕はひまわりさんに会う前は、実は、全く違う時代で生きてたんだ」
「違う時代?」
ひまわりはやはり混乱している。
「そう違う時代…
僕はここに来る少し前まで、1944年の激動の時代を過ごしていた…
硫黄島という場所で敵と戦っていたんだ。
日本軍は窮地に追い込まれてたけど、僕は国家や仲間を信じて必死に戦ってた。
その時、真っ赤な光が僕を包んで、僕はどこかに飛ばされた感じがしたんだ。
一瞬、頭が真っ白になって、そして、目を開けたら、ひまわりさんが僕を覗き込んでた」
「え? 嘘? 信じられない…」
ひまわりの頭の中に、あの日の光景が走馬灯のように甦る。
「僕も信じられなかったよ。
混乱して気がおかしくなりそうだった。
何が何だか分からなくて、夢を見てるのかと思ったくらい…
でもあの時、僕の近くにひまわりさんがいてくれた。
ひまわりさんだけが、僕にとってのただ一つの現実で救いだったんだ」
海人はひまわりの目を見つめて、そう話した。
「戦争で生きるか死ぬかの生活をしていた僕に、天使が舞い降りたと思ったくらいだった…」
海人は今でもそう思っている。
「僕の事を、頭がおかしくなったって思ったろ?」
すると、ひまわりは大きく深呼吸をしてからこう言った。
「ううん…
実は、本当は、私もずっと変だと思ってた。
だってあの日、誰も居なかったはずのベンチに大きな轟音と稲光がして、そしたらそこに海人さんがいた。
一瞬の出来事で、あまりの驚きに声も出なかったくらい。
あの日、あの屋根付きのベンチは嵐のような天気のせいで薄暗かったから、本当は私が気がつかなかっただけで、最初から海人さんは座ってたって…
…座ってたって、そう思い込むようにしてた」
ひまわりの声は震えていた。
「ひまわりさん、違うんだ。僕は過去からやって来た人間なんだ。
どうやったら戻れるのかも、このままここに居れるのかも何も分からない。
ひまわりさんを巻き込んでしまって、本当に申し訳ないと思ってる…」
海人はひまわりの目を見るのが怖かった。
こんな僕のことを怖がるに違いない…
ひまわりは、海人の告白にかなり動揺していた。
何かがあるとは思ってはいたけれど、過去から来たなんて想像すらできない。
でも、ひまわりは軍服をまとっていた海人を思い出した。
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あの時の海人さんの格好や、自動車に驚く海人さん、コンビニで困惑している海人さんとか、思い起こせば、全部それにつながってるから…」
海人は黙って聞いていた。
そして、こんな想像もつかない話を聞いてひまわりが怯えていないか、それだけが怖かった。
「でも、私は何で海人さんを放っておけないんだろう…?
海人さんが嘘をついてるとは思えない。
私は、たぶん、海人さんに会ったその時から不思議と信用してた。
離しちゃいけないって、勝手にそう思った」
海人はずっとひまわりを見つめている。
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