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プロローグ
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しおりを挟む私の人生、何が起こるか分からない…
国立の美大を四年では足りず、教授の助手として二年、合わせて六年在籍した。
画家として生きていきたい。
そんな私の大きな夢は、日本女流西洋画家協会の主催するアカデミーエリート養成コースの狭き門を突破した事で、現実味を帯びて私の元へ舞い降りた。
「神田さん、本当におめでとう!
世界的に有名なフィレンツェにある油画の専門学校の事はもうご存じだと思うけど、そこへの入学のチケットを特典としてお渡しします」
その特典が喉から手が出るほど欲しかった。
憧れのイタリアで、油絵を愛する画家の卵なら誰もがそこで学びたいと思う専門学校で、私は好きなだけ絵を描ける。
西洋の風景画を愛して止まない私は、このチャンスを必死の努力で手に入れた。
あとは出発するだけ、のはずだったんだけど…
憧れのイタリア留学、そんなに甘いものじゃなかった。
私が手に入れた特典は、試験を突破した合格通知のようなもので、他もろもろの諸経費は全て自腹。
学校の入学金だけは免除、でも、月々の授業料、アパート代、生活費、そして、絵の具やキャンバスや油絵に関わるこまごまとした材料費、その一年分のトータルをざっと計算したら、目の玉が飛び出した。
生活費だけで、150万円は軽く超える。
それにエア代を加算したら、もうお手上げ状態だった。
私はチケットと一緒にもらったその学校の書類を読み漁り、入学日がいつなのか調べてみた。
ところが、入学の日時がどこにも書いていない。
私は、日本女流西洋画家協会のアカデミーエリート担当者のイタリア人にその旨を聞いてみた。
「そこの学校は、とても自由ね。
今年の六月から来年の六月の間であれば、いつでも入学OKみたい。
入学した日から一年が養成コースになっています。
神田さんは、いつ頃、入学できますか?」
私はあまりの幸運さに天を仰いだ。
「入学は、まだしばらくはできません。
多分、来年に入ってからになると思います。
はっきりとした日程が決まったら、また連絡に来ます」
そこから先の私はとにかく忙しかった。
まずは、お金を稼がなきゃならない。
母子家庭の余裕のない実家には頼りたくないし、お金にならない画家になるとそう選んだのは自分だし、それ以前に、この稀少なチャンスを絶対に無駄にしたくない。
昼間はドーナツ屋で働き、夜は時給の高いコスプレガールズバーで働く日々が三週間ほど過ぎた頃、大学の先輩から一通のDMが入った。
“まひる、フィレンツェへの切符手に入れたんだってね、
すごい!おめでとう!
今、がむしゃらにお金を稼いでるって聞いたんだけど、実は、内々で教えたい情報があります
まひるにとっては、美味しい話かもしれない
興味があれば、電話をください”
そのメッセージは、一つ年上の沙織先輩からだった。
沙織先輩は、とても美人で、社交的で、大学三年生の時に、日本で三本の指に入る超有名な広告代理店から内定をもらったほどの秀才だった。
家柄もよくて、性格もよくて、そんな沙織先輩と私は、コスプレサークルで知り合い友達になった。
美大生は変人が多いとよく聞くが、私達も紛れもなくその部類に属していた。
「沙織先輩、まひるです」
私が慌てて電話をすると、沙織先輩は待ち合わせ場所だけを告げて電話を切った。
その美味しいバイトって一体何なのだろう?
ドーナツ屋のバイトの時給は950円で、コスプレガールズバーの時給は1200円、コスプレバーに関しては言えば、夜の仕事としては少々割に合わない。
でも、長続きさせるためには楽しんで仕事をする事が一番で、コスプレが趣味の私にとって、その店で七変化できることは何よりの喜びと気分転換だった。
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