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プロローグ
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しおりを挟む「そして、できれば、一週間後に籍を入れたいと思ってる。
まひるも、とりあえず身辺整理をして、僕の元に来てほしい」
「あ、あの…
私、絵を描く人間なので、ミ、ミチャの家では、絵を描く事はできますか?
できるだけ、お部屋を汚さないよう気を付けますので」
先輩が私の手をそっと握ってくれる。
私みたいに絵を描く事しか能がない人間は、絵を描く事は息をする事と等しかった。
私の良き理解者の先輩も、心配そうにミチャの表情を窺っている。
「それは全然OK。
今、僕の住んでいるマンションは、リビングの他に三つの部屋、そして多目的スペースっていう用途の分からない部屋がある。
僕の部屋と、まひるの部屋、あと残った部屋の中から好きな場所を選べばいいよ」
ミチャは私の顔をジッと見ている。
何かを探るようなその目つきはとてつもなくセクシーで、何だか、私は体の芯から熱くなった。
「画家志望か…
今までの僕の人生に、そんな夢を持って頑張っている人はいなかった。
僕と過ごすこの一年、まひるの好きなようにすればいい。
僕はいつでも応援するよ」
ミチャはよくよく見ると最上級にいい男だった。
最上級にいい男は、女性にも男性にも絶対にモテるはずで、どうやら、風磨と同じく私とおまけに先輩までも、ミチャの魅力の魔法に心を持っていかれたみたい。
「まひる、大丈夫?」
帰りの電車の中で、沙織先輩が心配そうにそう聞いてきた。
「何がですか?」
私はその質問の意味を何となく察していたが、それでもちゃんと聞きたかった。
先輩が心配する事柄と、私が憂慮する思いが一緒なのか、ただ単純に知りたかった。
「ミチャに惚れちゃだめだよ…」
そ、そうだよね…
だって、ミチャがあんなに素敵な人だなんて想定外だもの。
「大丈夫です…
多分、ううん絶対に、私はミチャに惚れない。
だって、先輩、知ってるでしょ?
私の変な癖を…
それが顔を出したら、私が惚れるとかいう以前に、ミチャが私を捨てます」
先輩はそっかみたいな顔をして、私を見た。
「まひるは惚れた男の裸体を描きたくなる。
本気で好きになる過程だったっけ?
愛する人は神聖なものとして、描きたくなる。
芸術家にはあるあるの話だけどね」
「でも、普通の感覚の人は、引いちゃうケースが多い。
やめてくれ~、そんな目で見ないでくれって」
私は自分の事ながら笑ってしまった。
本気になる前の過程でダメになる恋がほとんどだった。
だから、ミチャを好きになっても成就する事は絶対にない、悲しいけれど。
「一年間、ミチャと結婚ごっこを楽しめばいいよ。
私もしょっちゅう遊びに行くから」
私は電車の窓ガラスに映る自分の疲れた顔を見て、静かに目を閉じた。
これから始まる偽物の一年間は、私の人生を何色に変えるのだろう…
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