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入籍記念日
…3
しおりを挟む私はお母様に手を引かれ、お屋敷の中庭へ連れて行かれた。
カタカナのロの字に建てられた素敵な家のど真ん中に、小さなパーティができるほどのイギリス式の庭園がある。
今夜はそこでパーティをするらしく、立食で楽しめるように細長いテーブルが庭を囲んでいた。
「ミ、ミチャ、今夜は、一体、どれだけの人が呼ばれているの?」
私とミチャと、そして風磨と、その三人だけが招かれていると思っていた。
「さあ…
僕は風磨が来る事しか知らない」
ミチャって、究極のマイペースで呑気でアンテナを張っていない。
私達の入籍パーティに招かれている人達には、全く興味がないなんて。
「私…
この恰好で大丈夫かな」
自分の中では、それなりにちゃんとした格好だと思う。
でも、コスプレの衣裳にお金がかかり過ぎて、自分の普段の洋服はいつも二の次になっている。
今日、着ている洋服も、コスプレの衣裳を作った後に余った端切れで作ったものだ。
ロングのスカートは濃紺の生地と水玉の生地の二層仕立てになっていて、我ながら自信の作品だし、ブラウスに関しては、今では流行らない肩パットを入れている。
そこがみそだ。
真っ白の生地のブラウスにあえて入れた肩パットのデザインは独創的で、誰が何と言おうと私のお気に入りだった。
そんな私の独特の恰好を、ミチャは改めて上から下まで見てくれる。
「大人になったアルプスの少女ハイジみたいで、僕はいいと思うけどな。
まひるのその無造作にまとめられたお団子の髪型に、よく似合っていると思うし」
ハイジ??
あのお空のブランコに乗った?
「まひるは他の女性と違う。
僕がまひるを選んだコンセプトはそこにしようと思ってる。
でも、僕は、そんなまひるが魅力的だと本当にそう思ってるから。
そのモアイ像のピアスもすごく似合ってるよ」
え?
モアイ像??
いやいや、私が今、耳にぶら下げているピアスはモアイ像なんかじゃありませんから。
この長方形の幾何学的なデザインのピアスは、裏はシルバー表はゴールドの色使いが個性的で、見るたびにチラチラと色が変化する。
で、でも、見る角度によってはモアイ像に見えるのか?
「ミチャ、このピアスは…」
そう言いかけた時、奥の方でお母様の声がした。
「行こう、パーティが始まるみたいだから」
ミチャは私の手を握り、優しくエスコートする。
“さあ、二人だけのゲームが始まるぞ”って、耳元で囁きながら。
私とミチャの入籍記念パーティは、和やかなムードの中で粛々と進んでいく。
招待客のほとんどはミチャのご両親のお友達で、ミチャの事を子供の時から知っている人ばかりだった。
だから、ミチャの結婚を素直に喜んでくれて、私達の猛烈なスピード婚については誰も何も突っ込まない。
そして、ミチャはいつでも私の隣にいてくれた。
その立ち振る舞いは滑らかなほどに自然で、さりげなく私の腰に回す手の温もりに、馬鹿な私は本物の愛情と勘違いしてしまうくらい。
「まひるさんは、画家の卵だと聞いているけれど」
そういう質問に、私は丁寧に、そして、楽しんで受け答えをした。
ミチャのご両親にしてもそのお友達にしても、皆、絵画に関してのたくさんの知識を持っている。
そういう人達と話をするのは本当に楽しかった。
偽物の結婚という事実を隠す事にあり得ないほど緊張していた私なのに、今のこのひと時はすごく有意義な時間を過ごしている。
「道也君が、まひるさんに惹かれた理由が何となく分かるよ」
そんな嬉しい事を言ってくれる素敵なおじ様もいた。
その度に、私は隣にいるミチャの顔を見る。
ミチャも嬉しそうだ。
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