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七夕の日
…3
しおりを挟む私は玄関のドアを開けると、「ミチャ~」と叫んだ。
私と先輩は、玄関の中で、最強のポージングで待っている。
でも、またもや、先にやって来たのは風磨だった。
風磨は非現実的な光景に出くわし一瞬目を丸くしたけれど、すぐに鼻血を出しそうな勢いで興奮し始めた。
「ミチャ、すっげ~よ~~」
私の愛するミチャは風磨の声に導かれ、ゆっくりと私達の前へ来た。
ミチャが目の前に立った事を合図とし、私達は何パターンかの可愛らしいはずのポーズを決めて見せる。
「ヒュ~~」
そう言って喜んでいるのは風磨で、ミチャは唖然としている。
「七夕という事で、猫風のコスプレでやって来ました~~」
先輩は風磨が喜んでいる事に気分を良くして、楽しそうにそう説明した。
「コスプレ?」
「コスプレか~、いいじゃん、俺は好きだな」
風磨の感想はどうでもいい。
私はミチャの表情ばかりが気になって仕方がなかった。
「とりあえず、中に入っていいですか~?」
テンションが高いままの先輩は、風磨にちやほやされながらリビングの方へ歩いて行く。
でも、ミチャはまだそこに立っていた。
「ミチャ、これ、覚えてる?
ほら、ミチャが私の部屋のクローゼットの中で見つけたやつ…」
「覚えてるけど、もしかしてあれなの?」
私は肩をすくめて笑った。
ミチャって、私の書いた七夕の短冊も毎日眺めていたのに、推理もひらめきも全く持ち合わせていないみたい。
「そう、ミチャが猫と間違えた私の私服…」
合点のいった顔とはこの事だ。
ミチャの困惑顔は消え、納得顔に変わった。
「僕がクローゼットに猫がいると思った、あの猫?」
ミチャって本当に可愛い。
理系バカで、ロボットの事ばかり考えてきたミチャは、世間の不思議や流行に驚くほど疎かった。
「私、コスプレが趣味なの。
ミチャ、コスプレって分かる?」
私はそう言って、猫のポーズをする。
ミチャの目が楽しそうに丸くなり、目のやり場に困っているのか視線があちこちと定まらない。
「まひるって、すごいな…
僕を、僕の知らない世界を案内してくれる妖精みたいだ」
妖精って……
私は、ミチャが私の事を本当は愛してくれているのだと、たまに錯覚してしまう。
ミチャの言葉こそ、私をメロメロの骨抜きにする魔法の言葉だ。
「ミチャ、気に入ってくれた?
私のもう一つの裏の顔を…」
ミチャはまだ玄関にいる私に手を差し伸べた。
そして、優しく私を自分の方へ引き寄せると、私の耳元でこう囁いた。
「すごく気に入った。
僕のペットとして、ずっと一緒にいてもらいたいくらい…」
この震えるほどの感情は、コスプレイヤーの醍醐味ではない。
女性としてのミチャへの想いが、胸の中のコップからあふれ出そうなそんな切ない感情。
数日前から、夏仕様に短くカットしたミチャの黒髪に、ずっと心がときめいていた。
猫の仮面をつけて違う誰かに変身しても、私のこのやるせない想いは消す事も隠す事もできない。
そんな事を考えながら、私はまた猫のポーズをする。
大好きなミチャに笑ってもらいたいから…
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