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秋分の日(風磨の引退試合)
…9
しおりを挟む風磨は思いがけない場所に登場したミチャの姿に半分驚きながら、でも、心から感謝をしているのが分かった。
それは見ている全員が分かるほど、風磨の泣き顔がそう物語っていた。
友情や恋愛感情や、そんなもの全てを超越している。
目には見えない二人の強い絆は、風や空気に乗り、応援するファンの心に何かを訴えかけた。
泣いたり笑ったりする風磨の心は、一体何を感じているのだろう。
物心ついた頃からミチャが好きだったと、風磨は言った。
まひるの好きと俺の好きは次元が違うんだと。
センチメンタルな秋の風が、風磨の言葉を私の記憶の中から甦らせる。
ミチャを諦める事は自分を捨てる事なんだ…
俺は不器用だから、ミチャを失ったらどうやって生きていけばいいのか分からないよ…
二人の複雑な関係を思えば思うほど、私は号泣が止まらなかった。
だけど、今日に限って言うのなら、この風磨の大切な節目の日に、ミチャが立ち会えて本当によかった。
そして、いつの間にか、会場は向井コールが響き渡っている。
その声援は、真っ青な空に高く高く昇って行く。
まるで、天にいる神様に、これからの風磨を応援してくれとファンの皆がお願いしているみたいに…
セレモニーが終わった後、私は関係者の出入り口のところでミチャを待っていた。
他の選手とその家族は次から次へと出てくるのに、風磨とミチャは中々出てこない。
すると、私の隣から、誰かを待っている高校生くらいの女の子達の会話が聞こえてきた。
「風磨の泣き顔、初めて見た~~
うちも、めっちゃ泣いた~」
どうやら風磨のファンらしい。
でも、風磨って、呼び捨てかい!
そんな風にツッコミながら、私は耳を傾けてその子たちの話をじっと聞いていた。
二人とも熱狂的な風磨のファンらしく、スマホには風磨とのツーショット写真が何枚も入っているらしかった。
二人でそういう写真を見せ合って、キャッキャッと騒いでいる。
でも、急に一人の子が泣き始めた。
「風磨って、もう、このグランドに来ないんだね…
だって、ラグビー辞めるんだもんね…」
スマホの写真を見つめながら、二人ともポロポロ涙を流している。
そんな姿は、また私の涙腺を破壊させた。
私は場所を移動して、柱の後ろに隠れて泣いた。
タオルで涙を拭きながら出入り口を覗いていると、風磨ではなく、いつものTシャツに着替えたミチャが挙動不審な動きをしながらその場に登場した。
私が歩み寄るより早く、さっきの女の子達がミチャを取り囲む。
「風磨の親戚の人、一緒に写真を撮ってもらえませんか?」
ミチャはこういうシチュエーションに慣れていない。
人の熱気で暑苦しいグランドは酸素が薄いと、さっき言っていた。
「え? 僕とですか?」
でも、高校生相手に丁寧に敬語で話すミチャは、やっぱり面白すぎる。
「はい、風磨の親戚の人ですよね?」
「あ、はい…」
すると、その女の子達は誰か写真を撮ってくれる人を探し始めた。
そこへ颯爽と私が登場する。
まるで、今、通りかかった人みたいに。
「写真、撮りましょうか?」
私がそう言うと、ミチャがホッとした顔で私に目配せをする。
私はミチャの方は見ず、とりあえずスマホで三人のスリーショットを撮ってあげた。
「あの、風磨とどういう関係ですか?」
その子達からしてみれば、風磨のどんな情報でも知りたい。
でも、ただでさえおどおどしているミチャにとっては、シンプル過ぎて逆に難かしい質問だった。
「あ、僕と風磨は、なんていうか、兄弟のようなそんな感じで育って…」
ミチャの口調はおっとりでゆっくりだ。
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