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道也の誕生日
…2
しおりを挟むという、ミチャからの思いがけない告白があってから、二週間が過ぎた。
そう、今日は十一月二十三日、ミチャの二十九回目のお誕生日。
本来なら朝から大阪へ向かう予定だったのに、ミチャが元カノの誘いをはっきりと断れなくて、今に至っている。
二週間前のあの日、ミチャはその元カノに誕生日の日は会えないとはっきり伝えると約束してくれた。
確かに、ミチャは何度もその人にそう伝えた。
でも、その桜子という元カノは、ミチャより一枚も二枚も上手だった。
まず、ミチャは、メッセージで結婚した事をちゃんと報告した。
でも、元カノは動揺する事はなく普通だった。
自分との約束はミチャが結婚する前のものだから、無効にはならないと。
そして、桜子というその人は、ミチャの性格を完璧に熟知していた。
そりゃ、元カノなんだからしょうがないけど。
ミチャの性格上、こういう人間対人間の駆け引きみたいなやり取りが何よりも苦手だった。
そして、全てが面倒くさくなる。
という事で、ミチャは彼女の押しに簡単に屈服してしまった。
ミチャが元カノと闘っている間(闘っていたと私は思いたい)、私はミチャの動向を見守っていたけれど、でも、必要以上に口も出し過ぎた。
それが裏目に出たのは、悲しいけれど、間違いない。
でも、多分、私が居なければ、ミチャは半日で屈服していたはず。
そんな風に勝ち負けを意識しているのは、もちろん私一人だけだけど…
「まひる、今日はごめん。
できるだけ早く帰ってくるから、明日は朝からどこかへ出かけよう。
僕の誕生日なんて、普通の日と全く変わらない。
だから、まひるも好きな事して普通に過ごしてていいからね」
確かに、ミチャはいつもと何も変わらない。
でも、今日はすごくいい天気で出掛けるにはもってこいの最高の日なのに、一日が潰れてしまった事に、私はまだ元カノを憎んでいた。
こんなモヤモヤが残る日は、絵を描くのが一番いい。
何かに集中しなければ、何か突拍子もない事をやらかしてしまいそうだから。
ミチャと元カノは夕方の六時に待ち合わせしていた。
さっさと用事を済ませてさっさと帰ってくれば、夜の八時頃には帰ってこれるよね?
私は、ミチャに釘を刺すようにこう言った。
「ミチャ、バースデーケーキ買って待ってるから、早く帰って来てね…」
演技ではなく、私は本当に元気がなかった。
ミチャの心変わりとか、元カノとの再燃とか、そんな不吉な事ばかりが頭をよぎって吐きそうになる。
さすがに鈍感なミチャも、私の具合の悪さに気付いたらしい。
「まひる、顔色悪いけど、大丈夫か?」
私は苦しそうに首を横に振った。
「ミチャの誕生日は、今日だけなのに…
私がミチャの誕生日を祝ってあげられるのは今年しかないんだよ。
だって、五月には別れるんだから…」
こんな事言いたくない。
でも、やっぱりミチャの誕生日は一緒に過ごしたかった。
ミチャは私の隣に座る。
そして、私の頭をポンポンと優しく叩いた。
「大丈夫だから。
一時間もしないで帰って来るよ」
ミチャは時計を見た。
電車で行くなら、もう家を出ないと間に合わない。
濃紺のジーンズに白色のダンガリーシャツ、そして、その上にカーキ色の上着をはおり、もう一度、私の頭を撫でた。
「すぐに帰って来るから。
ケーキ、楽しみにしてるよ」
ミチャはそう言い残し、慌てて部屋を出て行った。
何だか、その人に会う事を楽しみにしているみたいに。
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