はじまりと終わりの間婚

便葉

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道也の誕生日

…3

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ミチャの今までの人生を私は知らない。
ミチャの全てを知りたいし、ミチャの全てがほしい。
最近の私は、欲求不満も甚だしかった。
あの真夏の沖縄で、私達はキスをした。
でも、あれ以来、ミチャは私にキスをしてくれない。
時間が経つにつれ、ミチャの気持ちが全然分からなくなる。
ミチャの私への想いは、四月に知り合った時と何も変わらなくて、ミチャはただ結婚ごっこを楽しんでいるだけなのかもしれない。
私だけがこんなに好きになって、馬鹿みたいに落ち込んで、ミチャの心を求めている。
 
私は一人になった部屋で、大声で泣いた。
ミチャを責める事なんてできない。
だって、あの誓約書に、お互いを好きになりましょうなんて書いていなかったから。
ひとしきり泣いてソファでゴロゴロしていると、玄関のインターホンが鳴った。
画面を覗いてみると、そこには風磨が映っていた。
 
「風磨!」
 
私は、急いで、マンションのエントランスの玄関を解除した。
思いがけない風磨の登場が嬉しくて仕方がない。
私はエレベーターの前に立って、風磨を待った。
 
「うわっ、びっくりした!
何でこんな所に立ってるんだよ」
 
グレーのスウェットに身を包んだ風磨は、部屋着でやって来たみたいにリラックスしている。
風磨の顔を見ると、また泣きそうになった。
今日はミチャのバースディなのに、情緒不安定もいいところだ。
 
「風磨……」
 
その先の言葉が出てこない。
何から話していいのか、頭が何も働かない。
風磨は泣きそうな私の背中を押しながら、とりあえず部屋まで歩いた。
 
「今日は、ミチャの誕生日~~
なのに、まひるは、一人ぼっち~~」
 
なんて、憎たらしい言葉を歌に乗せて、私をからかいながら。
 
部屋へ入ると、風磨はミチャがいない事を確認した。
部屋の中を隈なく見て回り、そして、私の隣に座る。
 
「どうした? ケンカでもした?
それも、ミチャの誕生日の日に」
 
「風磨!
ねえ、桜子さんって知ってる?
ミチャの元カノの」
 
風磨の言葉にかぶせるように、私はそう質問した。
勢いがつきすぎて、風磨の声より三倍は大きい声で。
風磨は私の声の大きさに驚き、わざとらしく耳を塞いだ。
 
「桜子?」
 
私はうんうんと五回は頷く。
風磨の顔を間近で見て、風磨の肌が綺麗な事を認識する。
大きな二重の目は、少女漫画に出てくるヒーローみたい。
でも、今日の髪は、つむじの辺りが寝ぐせで立っている。
私は風磨を見つめながら、頭を大きく横に振った。
そんな情報、今は全く要らない。
落ち着きのない自分の性格が、ほとほと嫌になる。
その前に、風磨は、私の挙動な動きに変顔で対抗した。
それはそれで可笑しくて、私は声を出して笑ってしまう。
 
「桜子って、あの桜子?」
 
「あのの意味が分かんないけど、でも、その桜子だと思う」
 
風磨は目を細めて、気難しい表情で私を見た。
そして、私の肩に手を置いて、「ご愁傷様」と一言だけ呟く。
 
「風磨、ご愁傷様ってどういう事?
もう、こんな時に私をからかわないでよ~」
 
「からかってないよ。
本当の事を言っただけ。
桜子は、かなりヤバイタイプの人間って事。
100人男がいたら、100人桜子の魅力に堕ちる。
俺みたいな人間以外はね」
 
私はソファに倒れ込んだ。
大げさではなく、本当に具合が悪い。
風磨の助言は、私の病状を悪化させとどめを刺した。
 
すると、風磨は勝手にキッチンへ行き、私と自分のためにオレンジジュースをグラスに入れて持ってきた。
私の目の前にそのオレンジジュースを置き、自分のオレンジジュースは一気に飲み干す。
 
「何があったのか、詳しく聞かせて」

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