はじまりと終わりの間婚

便葉

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道也の誕生日

…7

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店の人がテーブルから離れたと同時に、風磨が席を立った。
 
「ふ、風磨、どこへ行くの?」
 
風磨は不吉な笑みを浮かべる。
 
「ミチャのところに挨拶に行ってくる。
別に、俺達は、ミチャを偵察しに来たわけじゃないだろ?」
 
私は立っている風磨を、一度座らせる。
 
「でも、わざわざ挨拶に行かなくても…」
 
風磨は大きくため息をついた。
 
「じゃ、何しに来たの?
俺は、桜子の表情を見るために来た。
ミチャはどうでもいいんだ。
ミチャには何の魂胆もないから」
 
私が固まっていると、風磨は私の肩をポンポンと叩いた。
 
「まひるはここでカツレツが来るのを待ってて。
だって、そのために来たんだから、ね?」
 
カツレツのために来た…
その理由の方が、ミチャは納得するかもしれない。
私は食いしん坊だから。
私はドキドキしながら、風磨を見送った。
私の座っている位置からは、ミチャの横顔しか見えない。
桜子さんは観葉植物の大きな葉っぱにちょうど隠れてしまっている。
すると、風磨は臆する事なく、ミチャの横に立ち何かを話し始めた。
ミチャの横顔が風磨の大きな体に隠れてしまい、私の位置からは何も確認する事ができない。
二人の様子が見えないせいか、私の心臓はせり上がるくらいにドキドキし始めた。
こういう場所へ来てしまった罪の意識を、今になって感じている。
 

風磨はあっという間に戻ってきた。
ちょっとだけ苛ついた顔をして。
 
「二人とも俺を見て、すごく驚いてたよ。
特にミチャは、まひるも一緒なんだって言ったら、一瞬、顔色が悪くなった。
桜子には、久しぶり、あの夜のミチャの部屋以来だねって言ったら、それもそれで、顔が引きつってた」
 
風磨ってすごい。
あんな短い時間に、それだけのダメージを二人に負わせてきたなんて。
 
「桜子は、また一段と綺麗になってた。
俺の嫌味にも大人の余裕を見せてたくらいだよ。
まひる、敵はかなり手強いぞ」
 
ミチャのせっかくの誕生日を、私は台無しにしたのかもしれない。
でも、もう、この場所に来てしまっている事をなかった事にはできないし、ここへ来て馬鹿みたいに取り乱す事だけはしたくない。
私は気持ちを入れ直した。
風磨みたいに平然になろうと。
すると、タイミングよくカツレツがやって来た。
 
「風磨、もういいの。
私は、今日は、ここにカツレツを食べに来たんだから、それに専念する。
桜子さん?
どうでもいいわ、だって、私はミチャの奥さんなんだから」
 
ミチャの奥さん、ミチャの妻…
その事実と言葉は、私に強烈なパワーをもたらしてくれる。
私にとっては、一種のおまじないみたいなものだった。
 
「出た~
まひるの得意技、俺の一番嫌いな言葉」
 
「風磨は気にしないで。
今日のターゲットはあの人限定だから。
それより、早く食べようよ。冷めないうちに」
 
私と風磨が開き直って食事をしていると、今まで見た事のない冷めた目をしたミチャが、私達のテーブルに近づいて来た。
 
「風磨、まひる…
それを食べたら帰るんだろ?
気を付けて帰るんだぞ。
あと、風磨、まひるをちゃんと家まで連れて行って」
 
「ミチャは?
ミチャはまだ帰らないの?」
 
ミチャは小さくため息をついた。
そして、軽く首を傾ける。
まひる、何でこんな所に居るんだ?と、私を責めるような目をして。
 
「僕はちゃんと帰って来るよ。
まひるは誕生日のケーキを準備して待っててくれるんだろ?
 
もうこれ以上、僕を困らせないで…」
 
ミチャの最後の言葉は、私の心臓に突き刺さった。
ミチャを好きな気持ちは、いつも私の理性を破壊する。
そして、ゴールの見えない私の恋は、膨らみ続けて破裂するのを待っている。
そんなネガティブマインドが、私を覆いつくす。
でも、私はめげずに首を横に振った。
 
「ミチャこそ、私達を困らせないで…
風磨はミチャの誕生日を祝いに来てくれて、私は…」
 
「まひる、もういいよ。
ミチャ、ごめん。
俺がこんな事を考えたんだ。
これ食べ終わったら帰るから、だから、ミチャもさっさと家に帰って来いよ。
 
それよりさ、新婚さんなのに、何やってんだ?
大事な日に、奥さんを一人ぼっちにして」

ミチャは軽く肩をすくめた。
そして、さりげなく桜子さんの方を見る。
何も言わずにこの場から居なくなろうとしているミチャが、私は歯痒かった。
 
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