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クリスマス
…4
しおりを挟む「初めまして。
早乙女道也と言います。
僕はコスプレに関しては全く疎い人間で、何か手伝ってあげたくても何も手伝ってあげられない。
という事なので、まひるの事をよろしくお願いします。
まひるの力になってあげて下さいね」
ミチャはいつものミチャ。
まだ大学生にしか見えない森魚の事を、無条件で受け入れてくれる。
私は、内心、ホッとした。
これで森魚と一緒に衣裳作りができる。心置きなく。
「っていうか」
万事休すの状況なのに、森魚が何か言おうとしている。
私は森魚の手を引っ張って、小さな声で何?と聞いた。
「あの…
ミチャさんって、まひるんの事を愛してますか?
今日、この家に来て、なんか結婚してる人達には見えないんですけど」
私は心臓が止まるかと思った。
森魚、何を言い出す??
私、何か言ったっけ? いや、言ってない。
どうしたの? 森魚~~
「まずは新婚さんなのに、クリスマスイブの大切な日に、まひるんは何でイベントに参加する?
ま、それは大した事じゃないとしても、それより、何でまひるんの部屋にシングルのベッドが置いてあるの?
俺が寝転んだ感じでは、あれは毎晩そこで寝ているよね?
新婚さんなら、普通、同じベッドでしょ?
何か、部屋の中も荒れてるし、俺が知ってるまひるんなら、今の状態は、最悪に落ち込んでる真っ最中って感じ。
それに、ミチャさん!
まひるんの事、好きじゃないでしょ?
だって、新婚の家に見ず知らずの男が入り込んでるのに、どうでもいいって顔してる。
なんか、この結婚、怪し過ぎるんですけど。
ま、俺にとっては、最高に都合がいいけどね。
だって、まひるんは最終的には俺と一緒になる運命だからさ」
私は放心状態で何が起こっているのか、頭がよく働かない。
でも、驚くほど、森魚の話は的を得てて、だからこその放心状態だった。
心臓だけがドクドク激しく鳴って、何も言葉を発せられない。
「森魚くん?
君がまひるとどんな関係かは知らないけど、僕は、まひるを束縛するつもりはないんだ。
まひるには自由でいてもらいたい。
それが、世間には通用しない考えだとしてもね」
ミチャは何ひとつ表情を変えずにそう言うと、私を見て微笑んだ。
そして、着替えるために自分の部屋へ行こうとした。
「じゃ、何のための結婚なんだろう?
俺の感じでは、まひるんはあなたにすごく気を遣ってる。
でも、いいや。
束縛しなくて、自由にさせてくれるんなら、この一か月は、まひるんは俺のパートナーなので、よろしくお願いしますね。
あと、俺はまひるんの事を愛してるんで。
あなたとは違って」
ミチャは立ち止まったまま、何も言わず森魚を見ている。
何か反論を考えているのか、その場から動かずに。
私は半分朦朧としながら、自分の部屋から森魚のリュックを取って来る。
「森魚、もう帰っていいから。
それと衣裳づくりも私が何とかするから、森魚はもう来なくていい」
「僕に気を遣わなくていいよ。
森魚君、まひるの衣裳づくりを手伝ってあげて」
森魚は呆れた顔をしている。
何なんだ?この男って、小さな声で囁いて。
それが、ミチャと森魚の最悪の初対面の日。
それからも、その最悪で不穏な空気は二人の間を漂っている。
私は森魚がミチャに楯突いたあの夜、ミチャに森魚との関係性を説明した。
大学の後輩で、もう長年コスプレのパートナーとして付き合ってもらってる事や、私にお姉さん的な想いを寄せているという事も。
「僕の事は本当に気にしないでいいから…」
この時のミチャは少し変だった。
何だかすごく苛ついて見えた。
でも、その苛つきの意味は、私には何も分からないけれど。
その後も、森魚は、普通に仕事が終わると私の元へ帰ってきた。
ミチャが居ても全くお構いなしに、私の仕事を手伝ってくれる。
私がデザインの変更をしたために圧倒的に時間が足りなくなり、それでも森魚は文句も言わず黙々と手伝ってくれた。
そんな状況の私はミチャの事を気に掛ける余裕もなく、ミチャの気にしないでという言葉に甘えて、森魚と二人で夜中まで衣裳作りに励んだ。
ミチャも十二月の年末という事で、帰りが遅い日が多く、それは二人にとって、ある意味ちょうど良かった。
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