はじまりと終わりの間婚

便葉

文字の大きさ
57 / 97
クリスマス

…3

しおりを挟む



そして、その日の夜、森魚は、突然、ミチャと私の家へ訪れた。
たまたま、その日はミチャは帰りが遅い日で、二人が鉢合わせになる事はなかったけれど、森魚はいつになく荒れていた。
私は、森魚をリビングではなく自分の部屋へ通すと、森魚の言い分は聞かずに今回のコスプレのイメージ案を見せる。
 
「あんまり時間がないから、前々回の衣裳をアレンジする事にしたから。
森魚の衣裳は前回より、よりダークな感じにしようと思ってる。
皆、クリスマスで浮かれているところに、私達は完全に闇の世界を表現したい。
夜には撮影会もあるみたいだし、超気合入ってるからね」
 
森魚は浮かない顔をしながらも、当たり前のように私のベッドに横になった。
私の枕の匂いを嗅いで大きくため息をつくと、ちょっとだけ笑顔になる。
 
「ねえ、森魚、ここは私の実家とは違うんだからね。
そんな風にくつろいだり、入り浸りも禁止だよ。分かった?」
 
森魚は言われっぱなしは嫌だみたいな素振りを見せて、起き上がって私を見る。
 
「まひるんさ、何で結婚なんかしたの?」
 
森魚って実はとても綺麗な顔をしている。
だから、コスプレ仲間の間でも森魚と組みたがる人がたくさんいる。
完璧な細身で(細マッチョではない、若干、栄養失調気味)、手足が長く、そして顔が小さい。
髪はくせ毛でふんわりしてて、でも、それはお洒落なパーマと間違われる。
パーマをかけるお金なんて持ってないのに。
この間、沙織先輩が言った言葉が、私の頭を駆け巡る。

「森魚とミチャって、なんか似てない?
シルエットとか、顔の感じとか」
 
私は似てるとは思わない。
今、森魚を目の前にして、なおさらそう思う。
 
「森魚…
結婚ってね、突然やって来るみたい。
森魚も、明日には、森魚の心を鷲掴みにする女の子に出会っちゃうかもよ」
 
結婚について必要以上に多くを語りたくない。
不思議な事に、森魚は私にだけは鋭いアンテナを張っていて、私に関してはやる気のなさは全く見られない。
だから、あまり話したくなかった。
 
「それと、今日はもう帰っていいよ。
大体、衣裳の感じを理解してくれれば、それでOKだから。
手伝いは森魚の仕事の様子を見ながらで、全然大丈夫。
森魚のミシンの技術や小物作りの才能は今の私には絶対に必要だけど、でも、無理は言わないから」
 
森魚は私のベッドにまた寝転んだ。
あ~、全然、話を聞いてない。
 
「森魚、ねえ、聞いてる?
ここの家では、寝泊まりはダメだからね。
いくら徹夜になりそうでも」
 
私は、そんな会話の時間さえもったいなかった。
自分が描いたデザイン画にさらに飾りを付けていく。
ダークな雰囲気だけど、皆の目を引くほど派手にしたい。
そうやって、画用紙とにらめっこをしていると、森魚がやっと口を開いた。
 
「まひるんの旦那さんに挨拶してから帰るよ。
泊まらないにしても、しばらくここの家にお世話になるからさ」
 
なんだか、森魚、大人になった?
この時の私は、完全に森魚に騙されている事に気付いていなかった。
 
 

「ただいま」
 
玄関のドアが開いて、ミチャの声がした。
私は部屋でゴロゴロする森魚を置いて、すぐにリビングへ向かう。
森魚を会わせる前に、今の状況の説明をしておきたかった。
 
「ミチャ、あのね」
 
ミチャは首をひねりながら、私にこう聞いた。
 
「玄関に男物の靴が置いてあったけど、誰か来てる?」
 
「あ、そうなの…
ミチャ、実はね…」
 
「あんた、ミチャっていうの?」
 
私は慌てていたせいで、森魚が近くに来ている事に気付かなかった。
さすがに、心優しいミチャも不機嫌な顔になる。
 
「あ、こんばんは。
あ、すいません、あ、自分は、清水森魚って言います。
一応、まひるんのパートナーです。
なので、しばらく厄介になります」
 
普段は大人しくて無口なタイプの森魚が、どういうわけか敵意むき出しの臨戦態勢だ。
そして、一番気の毒なのは、何も事情が分からないミチャだった。
 
「ミチャ、この人が、この間、話したコスプレのパートナーで、衣裳作りも手伝ってもらう事になってるの。
だから、時々、私の部屋に居るかもしれないけど、気にしないでね」
 
ミチャは目を細めて、森魚を見ている。
そして、視線を私に戻すと、肩をすくめてとりあえず頷いてくれた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

『 ゆりかご 』 

設楽理沙
ライト文芸
  - - - - - 非公開予定でしたがもうしばらく公開します。- - - - ◉2025.7.2~……本文を少し見直ししています。 " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。 ―――― 「静かな夜のあとに」― 大人の再生を描く愛の物語 『静寂の夜を越えて、彼女はもう一度、愛を信じた――』 過去の痛み(不倫・別離)を“夜”として象徴し、 そのあとに芽吹く新しい愛を暗示。 [大人の再生と静かな愛] “嵐のような過去を静かに受け入れて、その先にある光を見つめる”  読後に“しっとりとした再生”を感じていただければ――――。 ――――            ・・・・・・・・・・ 芹 あさみ  36歳  専業主婦    娘:  ゆみ  中学2年生 13才 芹 裕輔   39歳  会社経営   息子: 拓哉   小学2年生  8才  早乙女京平  28歳  会社員  (家庭の事情があり、ホストクラブでアルバイト) 浅野エリカ   35歳  看護師 浅野マイケル  40歳  会社員 ❧イラストはAI生成画像自作  

25年目の真実

yuzu
ミステリー
結婚して25年。娘1人、夫婦2人の3人家族で幸せ……の筈だった。 明かされた真実に戸惑いながらも、愛を取り戻す夫婦の話。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

紙の上の空

中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。 容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。 欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。 血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。 公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。

処理中です...