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クリスマス
…3
しおりを挟むそして、その日の夜、森魚は、突然、ミチャと私の家へ訪れた。
たまたま、その日はミチャは帰りが遅い日で、二人が鉢合わせになる事はなかったけれど、森魚はいつになく荒れていた。
私は、森魚をリビングではなく自分の部屋へ通すと、森魚の言い分は聞かずに今回のコスプレのイメージ案を見せる。
「あんまり時間がないから、前々回の衣裳をアレンジする事にしたから。
森魚の衣裳は前回より、よりダークな感じにしようと思ってる。
皆、クリスマスで浮かれているところに、私達は完全に闇の世界を表現したい。
夜には撮影会もあるみたいだし、超気合入ってるからね」
森魚は浮かない顔をしながらも、当たり前のように私のベッドに横になった。
私の枕の匂いを嗅いで大きくため息をつくと、ちょっとだけ笑顔になる。
「ねえ、森魚、ここは私の実家とは違うんだからね。
そんな風にくつろいだり、入り浸りも禁止だよ。分かった?」
森魚は言われっぱなしは嫌だみたいな素振りを見せて、起き上がって私を見る。
「まひるんさ、何で結婚なんかしたの?」
森魚って実はとても綺麗な顔をしている。
だから、コスプレ仲間の間でも森魚と組みたがる人がたくさんいる。
完璧な細身で(細マッチョではない、若干、栄養失調気味)、手足が長く、そして顔が小さい。
髪はくせ毛でふんわりしてて、でも、それはお洒落なパーマと間違われる。
パーマをかけるお金なんて持ってないのに。
この間、沙織先輩が言った言葉が、私の頭を駆け巡る。
「森魚とミチャって、なんか似てない?
シルエットとか、顔の感じとか」
私は似てるとは思わない。
今、森魚を目の前にして、なおさらそう思う。
「森魚…
結婚ってね、突然やって来るみたい。
森魚も、明日には、森魚の心を鷲掴みにする女の子に出会っちゃうかもよ」
結婚について必要以上に多くを語りたくない。
不思議な事に、森魚は私にだけは鋭いアンテナを張っていて、私に関してはやる気のなさは全く見られない。
だから、あまり話したくなかった。
「それと、今日はもう帰っていいよ。
大体、衣裳の感じを理解してくれれば、それでOKだから。
手伝いは森魚の仕事の様子を見ながらで、全然大丈夫。
森魚のミシンの技術や小物作りの才能は今の私には絶対に必要だけど、でも、無理は言わないから」
森魚は私のベッドにまた寝転んだ。
あ~、全然、話を聞いてない。
「森魚、ねえ、聞いてる?
ここの家では、寝泊まりはダメだからね。
いくら徹夜になりそうでも」
私は、そんな会話の時間さえもったいなかった。
自分が描いたデザイン画にさらに飾りを付けていく。
ダークな雰囲気だけど、皆の目を引くほど派手にしたい。
そうやって、画用紙とにらめっこをしていると、森魚がやっと口を開いた。
「まひるんの旦那さんに挨拶してから帰るよ。
泊まらないにしても、しばらくここの家にお世話になるからさ」
なんだか、森魚、大人になった?
この時の私は、完全に森魚に騙されている事に気付いていなかった。
「ただいま」
玄関のドアが開いて、ミチャの声がした。
私は部屋でゴロゴロする森魚を置いて、すぐにリビングへ向かう。
森魚を会わせる前に、今の状況の説明をしておきたかった。
「ミチャ、あのね」
ミチャは首をひねりながら、私にこう聞いた。
「玄関に男物の靴が置いてあったけど、誰か来てる?」
「あ、そうなの…
ミチャ、実はね…」
「あんた、ミチャっていうの?」
私は慌てていたせいで、森魚が近くに来ている事に気付かなかった。
さすがに、心優しいミチャも不機嫌な顔になる。
「あ、こんばんは。
あ、すいません、あ、自分は、清水森魚って言います。
一応、まひるんのパートナーです。
なので、しばらく厄介になります」
普段は大人しくて無口なタイプの森魚が、どういうわけか敵意むき出しの臨戦態勢だ。
そして、一番気の毒なのは、何も事情が分からないミチャだった。
「ミチャ、この人が、この間、話したコスプレのパートナーで、衣裳作りも手伝ってもらう事になってるの。
だから、時々、私の部屋に居るかもしれないけど、気にしないでね」
ミチャは目を細めて、森魚を見ている。
そして、視線を私に戻すと、肩をすくめてとりあえず頷いてくれた。
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