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クリスマス
…9
しおりを挟む「何、泣いてんのよ」
電話を終えてティッシュを探している私を見て、先輩がそう突っ込んでくる。
「森魚、もし、まひるがミチャと別れたら、その時こそが森魚の出番だからね。
まひるが嫌がっても一緒にいてあげる事。
了解? 分かった?」
「別れません!
何があっても、絶対に!」
森魚の手前、本当の事は言えない。
でも、その言葉は、私の正直な気持ちだった。
別れたくない…
イタリアなんか行かなくてもいい…
ミチャと一緒に居れるなら…
「心配無用っすよ。
まひるんは僕と結ばれるって、そう神様から聞いてますから」
先輩は大きな声で笑う。
私も呆れて言葉も出てこない。
どうやら、森魚は神様と友達らしい。
そんな森魚ワールドは、その先も続いていく。
「でも、沙織さんは結婚はないみたいっすよ。
それも神様がそう言ってましたから」
今度は私がケラケラ笑う。
こんなくだらない笑いが今の私に必要な事を、もしかしてこの森魚はちゃんと分かっているのかもしれない。
あ~、本当に、森魚が私の運命の人だったらどうしよう…??
そして、とうとう十二月二十四日のクリスマスイブを迎えた。
結局、私達は当日の午前二時に全ての衣裳を作り終えた。
コスプレイベントのスタートはこの日の午後一時からなので、私と先輩と森魚は、少しの時間を死んだように眠った。
天気予報では、クリスマスイブの東京は相当に冷え込むらしい。
この数日間は、そんな日々の移り変わりや時間の流れを、何も感じず気付かずに過ごしてきた。
没頭し過ぎて、逆に頭が変に冴えてしまう。
眠りから覚めた私達は、まさにそんな状態だった。
その日のイベントは例年とは全く違う盛り上がりで、コスプレ雑誌の編集部まで取材に来るくらい、ハイレベルなコスプレイヤーが集まった。
アニメキャラや既存のキャラではなく、オリジナリティを追求し作り出した私と森魚の世界観は、たくさんの人達に褒めてもらった。
撮影会も想像以上に人が集まって、私は完全にそのキャラになりきり現実とは違う世界を旅していた。
あっという間に時間は過ぎた。
楽しくて、楽しくて、楽し過ぎて、ミチャの事なんてすっかり忘れていた。
一日貸切っていたイベントホールで、打ち上げと称したパーティで皆でコスプレ納めの写真を撮っている時、私はふとミチャの事を思い出した。
その一瞬で、完全に、酔いからも夢の世界からも目が覚めた。
時計を見ると、もう夜の十一時を回っている。
「先輩、やばいよ…
私、今からすぐに家へ帰らなきゃ…
ミチャが待ってる…」
そう言葉にした途端、涙が溢れ出る。
今の今まで、ミチャの事を忘れていたなんて…
「まひる、無理だよ~
今日はオールナイトでクリスマスに突入するんだよ~
ミチャも、ちゃんと言えば分かってくれるよ~」
先輩はいい感じに酔っていて、そんな無責任な事を言う。
確かに、パートナーの風磨があり得ないくらいにかっこよすぎて、先輩も風磨も超売れっ子のアイドル歌手のように忙しかった。
ま、先輩は、風磨のおまけだけれど…
「…いや、私は帰りたい」
私は先輩にそう伝えると、ホールの隣にある控室へ走った。
ただの控室だから、シャワーは完備されていない。
でも、とにかく急いで着替えをしたかった。
「まひるん、手伝おうか?」
入り口の方で聞こえてきたのは、森魚の声だった。
森魚は私に軽くウィンクをすると、私の髪に編み込まれたティアラを外してくれる。
「森魚は最後まで残っていいんだからね。
私は帰っちゃうけど…」
メイクシートで顔を拭きながら私がそう言うと、森魚は首を横に振る。
「最後まではいない。
適当に帰るよ。
まひるんは急がなきゃ…
あの人が待ってるんでしょ?」
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