はじまりと終わりの間婚

便葉

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クリスマス

…8

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「森魚…
さっきの話だけど…」
 
私は部屋へ戻ると、ティアラ作りに没頭している森魚にそう声をかけた。
でも、森魚は私に目も向けずに、わざとらしく大きくため息をつく。
 
「俺の方も話がある。
まひるんさ、いい加減目を覚ましたら?」
 
森魚が私とミチャの関係を見てどう思っていようが、私とミチャには関係ない。
 
「目を覚ますって?
私はいつでもちゃんと起きてるつもりだけど?
森魚こそ、変な勘繰りはやめてほしいんだよね」
 
「勘繰りなんてしなくても気付くだんだからしょうがないじゃん」
 
森魚とこんな言い合いはいつもの事で、でも、今回はテーマが若干重い。
すると、トントンと誰かがドアをノックする音が聞こえた。
誰?と思っても、この家にはミチャしかいない。
 
「あ、忙しいところごめんね…
あの、森魚君も、せっかくだから、これ食べないかなって思って」
 
ミチャは大きなトレイにすき焼き鍋と真っ白いご飯を載せて、険悪なムードが漂うこの部屋へ入って来た。
確かに、ついさっき、私もご飯の途中で席を立った。
だから、この甘い匂いを嗅ぐと強烈にお腹が鳴り始める。
もちろん、隣で、森魚もすでにこの匂いの虜になっていた。
いつでもお腹を空かしている森魚。
ミチャの笑顔とすき焼きと真っ白いご飯に、森魚はもう白旗を上げている。
 
「お肉を買い過ぎたんだ。
森魚君も食べるかと思ってたから。
それに、僕は、森魚君とケンカをしたいわけじゃない。
森魚君がこうやってまひるの手伝いをしてくれる事に、本当は夫として感謝しなきゃいけないのに、何だか、変な焼きもちなんか焼いちゃって…
そのお詫びって言ったら、怒るかな?」
 
や、焼きもち?
ついに、無感情のミチャが認めた?

「あ、いいっすよ。
俺も、別に、ミチャさんとケンカがしたいわけじゃないので」
 
森魚はすき焼きに心奪われて、もうすき焼きの事しか頭にない。
最高の笑顔でミチャを見つめている。
というか、男ってこんなバカで単純でいいの?
私を巡っての二人のバトルは何だったの?
あの素敵な光景は幻だったのかもしれない。
 
森魚が体を震わせながら美味しそうに食べる姿を見て、ミチャはもう何もかもを許してる。
ミチャは自分の料理を心の底から美味しそうに食べてくれる人間に本当に弱いし、騙されやすい。
結局、私のほのかな期待も、ミチャの初めての焼きもちも、この甘いすき焼きと腹を空かした森魚に全部持っていかれてしまったようなそんな気分。
でも、それでもいい。
とりあえず、すき焼きを食べよう。
今、私のやるべき事は、一つ一つ目の前にある事をクリアしていくこと。
だから、今は、ミチャの作ったすき焼きを美味しくいただく事。
それが二人にとって一番ハッピーな事だし、何よりお腹が空き過ぎているから。
 

そして、私はこの日以降、衣裳作りの場所を先輩の家へ移した。
先輩こそ、色々と装飾に凝り過ぎた結果、衣裳の進捗状況は最悪だった。
結局ダイエットに失敗した風磨のビッグサイズの衣裳も半分ほどしか進んでなくて、泣きながら私に連絡が入った。
 
「まひる、お願い手伝って…
年末で仕事が思いのほか忙しくて、全然時間が取れない」
 
これも想定内。
毎年、こうやって先輩と一緒に作る事になる。
だから、完全にミチャはほったらかしだった。
皆ですき焼きを食べた次の日、私の部屋は空っぽになった。
ミチャにはスマホにメッセージを送ったけれど、何だかミチャが可哀そうであまり考えないようにしてる。
とにかく二十四日まで我慢してもらうしかない。
 
「まひる、僕だけど…
ずっと沙織さん所に泊まりっぱなしになるの?」
 
私のメッセージを見たミチャから電話がかかってきた。
 
「うん、そうなりそう。
そのまま沙織先輩の家からパーティに行く予定なんだ…
でも、二十四日は打ち上げには行かないでミチャの所に帰ってくるから」
 
そんな私を森魚と先輩は呆れたように見ている。
 
「じゃ、せっかくのイブの日だから、僕もそれなりの準備をして待ってるよ。
まひるも楽しんでおいで。
僕の事は気にしなくていいから」
 
私は泣きそうになる。
本当はコスプレなんてどうでもよかった。
ミチャと一緒にいたい…
イブもクリスマスもこれから先も、ずっとミチャと一緒に居たい…
でも、ミチャだけになってしまう自分が怖かった。
必ずやって来る別れの日は刻々と迫っているから。
 
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