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クリスマス
…7
しおりを挟む黒の細身のジーンズに紫色のロングTシャツを着た森魚は、どこかのロックバンドのボーカルのようだ。
私には従順なくせに、ミチャを見ると臨戦態勢になる。
人懐っこいポチが、急に、護衛犬のドーベルマンになったみたい。
「あ、それと、俺はまひるんの部屋がいいから。
まひるんと一緒にいなきゃ、精神がおかしくなるんで」
精神がおかしくなるのは、嘘ではない。
森魚はストレスに弱い。
あまり追い詰めると、メンヘラな部分が顔を出す。
森魚は甘えたように私を見た。
そして、私の手を取って、私の部屋へ行こうとする。
「森魚君、じゃ、ここから出て行ってほしい。
まひると一緒に衣裳作りを続けたいのなら、僕の会社にあるフリースペースを提供するよ。
そこなら泊まっても寝る場所はあるし、まひるも僕の会社だから気兼ねなく使える。
そうしてほしい」
「ミチャさんは、ずるいな~
今までほったらかしにしてたおもちゃを、他人が欲しいって言い出したら、慌てて大事にしてるふりをする。
俺は、そういう打算的な大人が一番嫌いなんです。
結局、そういう人って、その取り上げたおもちゃもいつかは捨てる。
そのおもちゃに思い入れなんて、何もないわけだから」
私は森魚の言葉が胸にぐさりと刺さった。
何だか私とミチャの経緯を全て知っているみたいで、森魚の存在が怖くなる。
そして、私の未来を暗示しているみたいで、思わず耳を塞ぎたくなった。
「まひるんも早く気付かなきゃ。
どういう事情があって結婚したかは知らないけど、この人は羊の皮を被った悪魔だと思うよ。
自分の利益だけを追求し過ぎて、相手に心がある事を知らない。
まひるんの気持ちなんてどうでもいいみたいな顔をしてる。
そんなの、まひるんを大好きな俺からしたら、すぐ分かるよ。
誰かを愛してる人の顔じゃない」
「森魚、もうやめて!
そんな事、森魚には何も関係ない事じゃない。
森魚は私の事を愛してるっていうけど、私はミチャの事を愛してる。
森魚の事は愛してない。
それじゃ、お互い片思いだね。
いいじゃん、それでも…
今が楽しければいいんだよ…」
森魚は天井を仰いだ。
馬鹿らしいって呟いて。
「それよりさ、ティアラを見てよ。
まひるんが絶対に気に入るように、お気に入りの宝石を散りばめたからさ」
森魚はそう言うと、部屋を出て行った。
何だか疲れた顔をして。
「ミ、ミチャ、ごめんね…
森魚が…」
ミチャは私を力強く引き寄せる。
そして、そのままの力で抱き寄せた。
「何が何だかさっぱり分からないよ…
だけど、あいつの言葉がストレートに僕の頭に入ってきて、どう対処していいのか分からない。
まひる…
僕は、もしかしたら、最低な人間なのかもしれない。
ハンマーで頭を殴られたみたいに、かなりショックを受けてる…」
私もミチャの腰にそっと手を回した。
ミチャの中で何かが変わり始めている事は確かな事で、でも、それが私への愛情なのか、自分の価値観の訂正なのか、それは私には分からない。
もし、ミチャの中に嫉妬という感情が湧き出ているのだとしたら、それは私にとって最高のプレゼントなのだけど。
でも、期待は禁物…
ミチャの性格は、海の底を泳ぐ魚のように、自由で掴む事なんてできないから。
「森魚の事は気にしないで…
私がちゃんと説得するから」
ミチャは私を抱きしめる力を抜かず、私の首元に頬を摺り寄せてくる。
「森魚君は、まひるの事をちゃんと見てるんだな…
そして、僕にないものをたくさん持ってる」
「ミチャにないものって何?」
ミチャは私から体を離し、私の頬を指でさすった。
「僕は、無いものだらけの人間だから…
でも、大切なものは身につけたいと思ってる」
私にはさっぱり分からなかった。
でも、分からなくていい。
それはミチャが探し出すこと。
今のミチャが不完全な人間なのなら、一つ一つない物を補っていけばいい。
私は、ただ、それを見守って待つしかないけれど…
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