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クリスマス
…12
しおりを挟む誰もいないエントランスホールは、まるで私達のための空間だった。
私達を包み込む空気はキンキンに冷えているけれど、クリスマスツリーの明かりとミチャの体温が、私に心地よい温もりを与えてくれる。
私は我慢できずに、ミチャにそっとキスをした。
「ミチャ、それって、焼きもちって言うんだよ…
ミチャは、私の事を愛してるって、ミチャの心がミチャに教えてくれたの。
そうでしょ…?」
ミチャはクスっと笑った。
重ね合うくちびるの感触でそれが分かった。
そして、今度はミチャの方から濃厚なキスをする。
「もしこれが焼きもちなら、焼きもちも、待ってる間の絶望感も、僕はあまり好きじゃないな…
自分をコントロールできないのは、本当に疲れる。
でも、それがあったから、こうやってまひるにキスができる今が、最高のひと時みたいに思えるよ。
これが恋をするって事?」
「…うん、ミチャは私に恋してる。
まひるの事が好きで好きでたまらない…」
私はミチャを洗脳したい。
ミチャのお気楽で無頓着な性格に、恋する喜びを教えてあげたい。
ミチャは私の肩を優しく抱き寄せた。
「早く家に入ろう。
二人だけのクリスマスパーティは今からだろ?」
家の中へ入ると、そこはミチャの想いが溢れていた。
リビングの真ん中には大きなクリスマスツリーが、そして、そのツリーの下には可愛らしい包装紙でラッピングされたプレゼントが何個か置いてある。
小さな子が喜びそうな可愛らしくて楽し気な飾り付けが、ミチャの頑張りを証明していた。
でも、テーブルの上は綺麗に片付けられている。
「料理は冷蔵庫の中にしまってある。
まひるはもう来ないって思ってからさ…」
私は、もう一度、ミチャに抱きついた。
「ミチャ、ごめんね…
本当は、今日だって昨日だって、ミチャとずっと一緒に居たかった。
でも、ミチャの事が大好きになり過ぎて、欲しいのもが多くなり過ぎて…
偽りの結婚なのに、私だけがミチャをどんどん好きになって…
だから、ミチャに執着しない生活をしようと思ったの。
いつもの、ミチャに出会う前の私に戻ればいいって。
でも、無理だった…」
ミチャは私をそっとソファへ座らせた。
そして、温かいココアを作って、それを私に持たせる。
「まずは体を温めなきゃ…」
私は話したい事がたくさんあるのに、上手く頭の中で整理ができない。
ココアが入ったマグカップを両手で握りしめ、一回、大きく深呼吸をした。
ミチャはそんな私を慌てずゆっくりと受け止めてくれる。
そして、冷え切った体に温かいココアを流し込んだ。
私を悩ます全てのものが、甘いチョコレートに呑み込まれてどんどん溶けていく、そんな気がした。
「それで、コスプレのイベントは成功したの?」
私はココアを手に持ったまま、うんと頷いた。
「そっか…
まひるの変身した姿を見てみたかったな…
僕はまひるの類まれな才能が大好きなんだ。
あの作りかけの衣裳を見て、本当に凄いと思った。
もちろん、まひるの描く絵だって、僕は本当に気に入ってる。
まひるって、本当に凄いよ…」
私はココアをテーブルに置いて、ミチャの手を握った。
「コスプレは、一瞬だけど、何もかもを忘れさせてくれる…
でも、本当の自分は、何をしても騙せない。
ミチャに出会う前の自分には、もう戻れないよ。
ミチャ…
大好きだよ…
百万回言っても足りないくらい…
私のこの気持ち…
どうすればいい…?」
今、私にできる事は、自分の本当の気持ちをミチャへ伝える事…
何度も何度も愛してると言って、ミチャの心を動かしたい…
こんな訳の分からない結婚だって、なくなってしまえばいいのに。
ミチャは私の切実な想いに小さくため息をついた。
そして、私をゆっくりと抱き寄せる。
「まひる…
僕へのクリスマスプレゼントは何?」
私はまた泣きそうになる。
あの慌ただしい日々は、クリスマスに関わる全ての事を忘れさせた。
そんなのただの言い訳だけど…
「ミチャ、ごめん…
何も準備してない…」
落ち込む私を見て、ミチャはクスッと笑う。
ほら、また意地悪なミチャが顔を出す…
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