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ホワイトデー
…3
しおりを挟む「ミチャ… ありがとう…
本当は、何度も買い換えようと思ってたの…
でも、あのデジカメは、本当に大切なもので、あの頃、お母さんが私のために奮発して買ってくれた。
その時のお母さんの顔をすごくよく覚えていて…」
ミチャは泣きそうな私の肩を抱き寄せる。
「まひる…
カメラとかロボットとかもそうだけど、電子機器っていうのは消耗品なんだ。
そんな消耗品が、今の今まで、壊れずにまひるの元にある事自体が、僕から言わせれば奇跡だよ。
だから、尚更、大切にしてほしい。
僕のプレゼントしたカメラは消耗品だから、失くしても壊しても全然構わないから」
ミチャは、きっと、こう思ってる。
ヨーロッパの美しい景色もこのカメラで好きなだけ撮ってほしいと。
でも、私は、その事については何も言わない。
そんな先の事、今のこの時間に考えたくはないから。
日が暮れる前に、私達はホテルへ着いた。
森の中にひっそりと佇む近代的な建物に、ちょっと驚いてしまう。
奥日光は歴史のある旅館やホテルが多い中、ミチャが選んでくれたこの今風のホテルは、ある意味、風景とのアンバランス感が不思議と気持ちが良かった。
そして、ホテルの敷地を少し下って行くと、中禅寺湖のほとりに着くらしい。
「チェックインを済ませたら、ちょっと散歩に行こうか?」
車を降りたミチャは私に薄手のダウンのジャンパーを着せ、そして、私の荷物を持って歩き出す。
チェックインを済ませると、私達は急ぎ足で湖へ向かった。
初めて訪れた奥日光は、森の緑と湖の透明色、そして、空の色合いのバランスがとても美しい。
特に、今の時間の空は、線香花火に似たほんのりとしたオレンジ色に染まっている。
「寒くない?」
湖のほとりにあるベンチに腰掛けた私に、ミチャは優しくそう聞いた。
「うん、大丈夫」
私は隣に腰掛けたミチャの腕に絡みついた。
ミチャの温もりがあれば寒さなんて感じない。
そんな私をミチャは愛おしそうに見つめている。
「この間のまひるからの質問に、今、答えていい?
早く聞きたいだろ?」
私は湖を眺めたまま、何も返事をしない。
返事をしないというより、したくないという方が正しいけれど。
どう?って、何だか楽しそうに聞いてくるミチャが何だか腹立たしい。
「答えていい?って聞かれれば、答えなくていい。
聞きたいか?って言われれば、聞きたくない」
ミチャは唖然とした顔で私を見ている。
というか、私がその答えを聞きたくてワクワクしているとでも思ってたの?
そういうところは空気を読んでほしいのに、いつもの鈍感でマイペースなミチャがここにいる。
「でも、まひるが質問をしたんだよ?
僕はその答えをずっと考えてたのに…」
そう言って遠くを見つめるミチャは、ちょっとだけ可哀そう。
母性本能を簡単にくすぐる術をちゃんと心得ている。
私に限ってかも?だけど…
「…ごめん、でも、まだいいよ。
まだ、聞きたくない。
でも、ミチャはこの旅行で言いたいんでしょ?
じゃ、聞きたくなったら、私の方から合図を出すから、その時に答えてね」
ミチャは目をパチパチして私を見る。
でも、何だか納得したみたいな顔をしている。
どうやら、私の一方的な言い分を理解できないまま頷いてしまった感じ。
そして、あっという間に、景色の色もオレンジ色から紫色へ変わっていた。
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