はじまりと終わりの間婚

便葉

文字の大きさ
97 / 97
エピローグ

…7

しおりを挟む



私はしまったと思った。
ギャラリーの方の電気を落とすのを忘れていた事、そして、入り口の鍵を中からかけるのも忘れていた。
そんな状況を通りから見た人に、まだクローズではないと思われても仕方がない。

私はやっと書いている動作を止めた。
そして、それと同時に入り口を見る。

「あ…」

ミチャ…?
ミチャが、来てくれた……

間に合ったみたいな顔をして、いつの間にかギャラリーに入って絵を観ているミチャは、やっぱり無頓着で空気が読めていない。
私の絵を観て素晴らしい…とか呟きながら、すでに鑑賞モードに入っている。
久しぶりの再会なのに?

「ミチャ? だよね?」

そんなの確認しなくても分かってるけど、何て声をかけていいのか分からなかった。
ミチャはやっと振り返る。
私の大好きなあの満面の笑顔で。

「間に合ってよかったよ…
まひるがここにいる間に、まひるの絵を観に来たかった。
あ~よかった、間に合って」

そんな事を言いながら、ミチャは私を抱き寄せる。
え? え? どういうこと?
ミチャ、どうしちゃったの?

「っていうか、ミチャ。
本当は間に合ってないんですけど…
もう、完全に終わってる時間だよ。
たまたま、私がやる事があって、ここに居ただけで」

まだ私が話している最中なのに、ミチャは勝手に話し出す。

「まひる、本当に凄いよ…
僕は本当に嬉しい…」

ミチャは、それでもまだ私の事を抱きしめている。
ミチャは、もしかして、私達が離婚した事を忘れているのかもしれない。
そんな事があっても不思議じゃない。
だって、それがミチャだから。

「まひる、会いたかった…
まひるは?」

まひるは?って?
そんな繊細な部分をいきなりつついちゃうの?

しばらくの沈黙の後、私は正直に答えた。

「…会いたかったよ、ずっと」

ずっとそう言いたかった。
でも、言っちゃいけないって思ってた。
別れを切り出したのは私の方だから…

ミチャの胸の中は、あの頃と何も変わらない。
何だか、自分の居場所に戻ってきたみたいな錯覚に陥ってしまう。
でも、でも、どういうこと?
私はあのモヤモヤを解消するために、勇気を持ってミチャの今の状況を聞いてみた。

「ミ、ミチャ…
長い時間が経っちゃったけど、誰かと結婚とかした…?」

ミチャは抱き寄せている私を少しだけ離した。
そして、目を細めてこう答える。

「僕が結婚をしたのは、まひるだけだよ」

「でも、離婚した…」

私はそう言うと、涙が溢れ出す。
これが、私の素直は想い…
ミチャは、もう一度私を抱きしめる。
今度は、さっきより力強く…

「それって、そんなに重要な事かな…?」

何事も深く考え込まないミチャでよかった。
ロボットのように単純で機械的なミチャでよかった。
感情に飲み込まれて再起不能になっているかと心配していたけれど、どうやら、ミチャは淡々と毎日を生きていたみたい。

「ミチャ…
私の事を忘れたのかと思った。
不必要になった事柄は、ミチャの脳には残らないって前に聞いたから」

ミチャは肩をすくめて少年のように笑った。

「それはないよ。
だって、あの一年で、まひるは僕の脳を完全にプログラミングした。
まひるを愛するっていう事をね」

始まりがあって終わりがある。
私達の結婚は一度終わってしまったけれど、それは無意味ではなかったみたい。

それより私達は、プラスとマイナスの磁石みたいにくっついてずっと離れない。
時間の流れに任せても、自然の成り行きに任せても、私達に離れるという選択肢はないみたいに。



「ねえ、ミチャ…
この先の私達って、どうなるの?」

「どうなる?
どうなりたい?」

私は笑ってしまった。
五年も経ったのに、何も変わらないミチャがここに居る…

「とりあえず、送別会に行かなきゃ。
皆んなが私を待ってるから…」

「じゃ、僕も行こうかな。
お腹空いてるし、いい?」

私はまた笑った。
そんな私を見て、ミチャも笑う。
こんな感じで、私達の未来はきっと続いていく。
ミチャはミチャのまま、私は私のままで…



「よし、じゃ、行こう!
でも、ミチャの事、皆にどう説明しよう…」

「元夫でいいんじゃない?」

「え? そっか、そうだね…
きっと、皆んな、驚くよ」

「そう?
大丈夫、大人しくしとくから」


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

『 ゆりかご 』 

設楽理沙
ライト文芸
  - - - - - 非公開予定でしたがもうしばらく公開します。- - - - ◉2025.7.2~……本文を少し見直ししています。 " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。 ―――― 「静かな夜のあとに」― 大人の再生を描く愛の物語 『静寂の夜を越えて、彼女はもう一度、愛を信じた――』 過去の痛み(不倫・別離)を“夜”として象徴し、 そのあとに芽吹く新しい愛を暗示。 [大人の再生と静かな愛] “嵐のような過去を静かに受け入れて、その先にある光を見つめる”  読後に“しっとりとした再生”を感じていただければ――――。 ――――            ・・・・・・・・・・ 芹 あさみ  36歳  専業主婦    娘:  ゆみ  中学2年生 13才 芹 裕輔   39歳  会社経営   息子: 拓哉   小学2年生  8才  早乙女京平  28歳  会社員  (家庭の事情があり、ホストクラブでアルバイト) 浅野エリカ   35歳  看護師 浅野マイケル  40歳  会社員 ❧イラストはAI生成画像自作  

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

25年目の真実

yuzu
ミステリー
結婚して25年。娘1人、夫婦2人の3人家族で幸せ……の筈だった。 明かされた真実に戸惑いながらも、愛を取り戻す夫婦の話。

紙の上の空

中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。 容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。 欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。 血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。 公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。

処理中です...