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エピローグ
…7
しおりを挟む私はしまったと思った。
ギャラリーの方の電気を落とすのを忘れていた事、そして、入り口の鍵を中からかけるのも忘れていた。
そんな状況を通りから見た人に、まだクローズではないと思われても仕方がない。
私はやっと書いている動作を止めた。
そして、それと同時に入り口を見る。
「あ…」
ミチャ…?
ミチャが、来てくれた……
間に合ったみたいな顔をして、いつの間にかギャラリーに入って絵を観ているミチャは、やっぱり無頓着で空気が読めていない。
私の絵を観て素晴らしい…とか呟きながら、すでに鑑賞モードに入っている。
久しぶりの再会なのに?
「ミチャ? だよね?」
そんなの確認しなくても分かってるけど、何て声をかけていいのか分からなかった。
ミチャはやっと振り返る。
私の大好きなあの満面の笑顔で。
「間に合ってよかったよ…
まひるがここにいる間に、まひるの絵を観に来たかった。
あ~よかった、間に合って」
そんな事を言いながら、ミチャは私を抱き寄せる。
え? え? どういうこと?
ミチャ、どうしちゃったの?
「っていうか、ミチャ。
本当は間に合ってないんですけど…
もう、完全に終わってる時間だよ。
たまたま、私がやる事があって、ここに居ただけで」
まだ私が話している最中なのに、ミチャは勝手に話し出す。
「まひる、本当に凄いよ…
僕は本当に嬉しい…」
ミチャは、それでもまだ私の事を抱きしめている。
ミチャは、もしかして、私達が離婚した事を忘れているのかもしれない。
そんな事があっても不思議じゃない。
だって、それがミチャだから。
「まひる、会いたかった…
まひるは?」
まひるは?って?
そんな繊細な部分をいきなりつついちゃうの?
しばらくの沈黙の後、私は正直に答えた。
「…会いたかったよ、ずっと」
ずっとそう言いたかった。
でも、言っちゃいけないって思ってた。
別れを切り出したのは私の方だから…
ミチャの胸の中は、あの頃と何も変わらない。
何だか、自分の居場所に戻ってきたみたいな錯覚に陥ってしまう。
でも、でも、どういうこと?
私はあのモヤモヤを解消するために、勇気を持ってミチャの今の状況を聞いてみた。
「ミ、ミチャ…
長い時間が経っちゃったけど、誰かと結婚とかした…?」
ミチャは抱き寄せている私を少しだけ離した。
そして、目を細めてこう答える。
「僕が結婚をしたのは、まひるだけだよ」
「でも、離婚した…」
私はそう言うと、涙が溢れ出す。
これが、私の素直は想い…
ミチャは、もう一度私を抱きしめる。
今度は、さっきより力強く…
「それって、そんなに重要な事かな…?」
何事も深く考え込まないミチャでよかった。
ロボットのように単純で機械的なミチャでよかった。
感情に飲み込まれて再起不能になっているかと心配していたけれど、どうやら、ミチャは淡々と毎日を生きていたみたい。
「ミチャ…
私の事を忘れたのかと思った。
不必要になった事柄は、ミチャの脳には残らないって前に聞いたから」
ミチャは肩をすくめて少年のように笑った。
「それはないよ。
だって、あの一年で、まひるは僕の脳を完全にプログラミングした。
まひるを愛するっていう事をね」
始まりがあって終わりがある。
私達の結婚は一度終わってしまったけれど、それは無意味ではなかったみたい。
それより私達は、プラスとマイナスの磁石みたいにくっついてずっと離れない。
時間の流れに任せても、自然の成り行きに任せても、私達に離れるという選択肢はないみたいに。
「ねえ、ミチャ…
この先の私達って、どうなるの?」
「どうなる?
どうなりたい?」
私は笑ってしまった。
五年も経ったのに、何も変わらないミチャがここに居る…
「とりあえず、送別会に行かなきゃ。
皆んなが私を待ってるから…」
「じゃ、僕も行こうかな。
お腹空いてるし、いい?」
私はまた笑った。
そんな私を見て、ミチャも笑う。
こんな感じで、私達の未来はきっと続いていく。
ミチャはミチャのまま、私は私のままで…
「よし、じゃ、行こう!
でも、ミチャの事、皆にどう説明しよう…」
「元夫でいいんじゃない?」
「え? そっか、そうだね…
きっと、皆んな、驚くよ」
「そう?
大丈夫、大人しくしとくから」
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