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エピローグ
…6
しおりを挟むそれからというもの、私の心はザワザワが止まらない。
誰かが入ってくるたびに、毎回、ドキドキしてしまう。
それでも、時間はあっという間に過ぎて行く。
ギャラリーを訪れる大切なお客様と言葉を交わしたり、気に入ってもらえた絵の説明をしたり、有難くて貴重な時間は急ぎ足で流れていく。
クローズの時間が近づくと、やっと、一息つける時間ができた。
オープンの日も、昨日も、今日も、ミチャは来ない。
そして、明日もきっと来ない。
五年の月日は、否が応でもでも人を変えてしまう。
もう三十五歳になるミチャは、他の誰かと結婚しているのかもしれない。
そう思う事にした。
何かに期待している自分が本当に嫌いだ。
だから、東京へ帰って来たくない。
私の心はあの頃のままだという事を思い知らされてしまうから。
三月一日から約三週間、このギャラリーで私の個展は続く。
でも、私がこの場所に居れるのは、今日が最後だった。
午前中は母に付き合って、先祖のお墓参りに行った。
私が日本を離れている間、母方の祖父が他界した。
お葬式に出れなかった私は、今、このお墓の前でおじいちゃんにさようならを言った。
そして、母とランチをして、それからギャラリーへ向かう。
ミチャへのバカみたいな想いは膨らむ一方だけど、それは、いつもの事だと自分の心に蓋をする。
私は、私の絵を観に来てくれる全ての人達に、最高のおもてなしを心掛けた。
中には、もう売約済みの作品もある。
この個展のホストとして、短い時間だけど、できる限りの事をしたかった。
「まひる先生、じゃ、私達、先にお店に行ってますね」
明日、イタリアへ帰る私のために、この個展のスタッフが送別会をしてくれるらしい。
クローズの時間が過ぎた今も、私は売約したお客様にメッセージカードを書いている。
この先、売約してくれるお客様を想定して、メッセージカードを何枚か準備しておきたかった。
「ごめんね~
これ書き終えたらすぐに向かうから。
この先のお店だよね?」
「は~い、待ってま~す」
ボランティアでスタッフをしてくれている大学生の女の子が、そう返事して外へ出て行った。
私はここのギャラリーの鍵の在り処を確かめる。
鍵をかけた後、このビルの管理人さんに預ける事になっているから。
そして、またカウンターに座り、メッセージカードをひたすら書いた。
「…すみません、まだいいですか?」
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