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エピローグ
…5
しおりを挟む受付に立っている私に、物思いにふける余裕なんてなかった。
何だか凄いんですけど!
私と話したい人が長蛇の列を作っている。
私と話したいのか、それとも手作りのポストカードがほしいのか、それはちょっと分かりませんが…
私は東京にいる間、毎日、このギャラリーに足を運んだ。
私の絵を選んで観に来てくれる人達に、一人一人お礼を言いたかったから。
そして、お母さんも、実は、毎日ここへ来ている。
仕事帰りにわざわざ遠い渋谷まで。
そんなお母さんを見るたび、日本へ帰る事を考えてしまう。
お母さんは、きっと、私の帰国を待ち望んでいるから。
二日目の午後、また、森魚がふらりとやって来た。
私が受付のカウンターに居る事を外から確かめると、私に外へ出て来てと目配せをする。
「まひるん、要件だけ伝えに来た。
俺さ、昨日の晩に、風磨さんに連絡しといたから。
沙織さんに余計な事をするなって釘をさされてたんだけど、でもね…
俺は、風磨さんやミチャさんだって知る権利はあると思ってるから。
男の気持ちとしては、だけど」
「何を知らせたの?」
私はミチャとか風磨とかそんな単語を久しぶりに聞いて、心が動揺していた。
「まひるんの個展をここでやってる事。
それと、明後日まではこの場所にまひるんが居るって事」
私の心臓はあり得ないほど高鳴っている。
もう、あの日から五年以上も経っているのに、ミチャの名前を聞くだけで涙が出そうになる。
「でも…」
「でも?」
森魚は目を細めて、私を切なそうに見た。
「風磨さんがそれをミチャさんに伝えるかは分からない。
風磨さんは、俺は行かないよって言ってたから」
私は首を横に振りながら、森魚に笑顔を見せる。
「いいよ。
森魚、気にしないでいいから。
もう時間が経ち過ぎてるし、私だって三十歳を超えてちゃんと大人になってる。
風磨だって、ミチャだって、その空白の時間をきっと有意義に過ごしてるはずだし。
だから、別に会わなくてもいいんだ。
でも、会えたら、ちょっとは嬉しいけど…」
森魚は優しく微笑んだ。
森魚は、きっと、私の心の中を見透かしている。
森魚って、そんな不思議な力がある子だから。
「そっか…
確かに五年以上も経って何も変わらないのは、俺とまひるんと沙織さんくらいなのかも。
三人とも、相も変わらず独身だしね」
森魚はそう言い終わると、慌てて時計を見る。
そして、また連絡するねと言って、人混みの中へ消えて行った。
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