はじまりと終わりの間婚

便葉

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「神田先生の個展、SNSでかなり評判いいですよ~」

私は、今、日本で単独の個展を開いている。
イタリアで活動を始めてから五年が経った去年、ローマにある有名なギャラリーで、新進気鋭の若手画家が集まって主催した絵画展に私の作品も何点が出品した。
その新しい形の個展は、一気にSNSを通じて世の中へ拡散された。
そして、私の作品も全て完売となり、神田まひるという名前は日本を代表する若手画家として、家族や仲間内を超えてたくさんの人に認知された。
私の作品は、ヨーロッパではいくつか賞も受賞したりした。
でも、日本では逆輸入という形で、今回の個展が私のデビューみたいなものだった。

イタリアへ移ってから五年以上が経つけれど、その間、里帰りをしたのはたったの二回だけだった。
ミチャと別れを決めたあの日から、私は日本へ帰る事を拒んできた。
ミチャを捨てたとは思っていない。
でも、絵を描く事を選んでしまったのは事実で、それは浄化しきれない情熱となって、私の魂に刻み込まれた。
色々な形で結果を出す。
自分自身が納得する大作を描く。
そして、子供の頃の夢のまま、有名な画家になってお母さんを楽させたい。
そこをクリアして、初めて日本へ帰れるのだとそう心に決めていた。

そして、この個展は招かれて開いたもの。
日本では有名らしい、アート関係のクリエイティブディレクターの秋吉さんという人から声をかけてもらった。
でも、その頃の私は、ある展覧会に作品を出品するため創作活動に没頭していて、そういう話をもらっても何も対応できなかった
そこで、私は恩師の大学の教授に協力をお願いした。
そして、この時期に開催する個展の素晴らしさを教授に説得させられて、今、こうやって神田まひるの絵画展を開く事ができた。

渋谷にある貸しギャラリーは、思っていた以上に大きく豪華だった。
白とグリーンを基調とした不思議な空間は、私の絵画の良さを最大限に引き立てるための工夫がされている。
って、まるで他人事のようだけれど、実際、私も日本へ来たのはオープンの前日で、だれよりもウキウキワクワクしているのは張本人の私だった。

オープンの日、一番最初に来てくれたのは、やっぱり大学の時の仲間だった。
もちろん、その中には沙織先輩も森魚もいる。

「まひる、凄いじゃん!
もっとこじんまりとしたちっちゃな個展なのかと思ってたから、ちょっと驚いちゃった」

そういう沙織先輩は柄にもなく涙ぐんでいる。

「それに、まひる…
日本にいた頃と何も変わってないのもどうかと思うけど…
髪型も洋服も、ねえ、その洋服、私と一緒に作ったやつじゃない?
あれから五年以上も経ったのに、まひるだけ見た目はそのまんま。
もしかして、中身も変わってなかったりする?

絵を描く事に没頭し過ぎて、まひるの内面の成長は止まったままなのかもね」

私をディスってるようにも聞こえるけれど、先輩の涙に笑ってしまう。
何で先輩の目から涙が出てくるのか分からない。

「まひるん、本当におめでとう!
やっぱり、俺の愛するまひるんだよ。
それと、おかえりなさい。
もうそろそろ日本へ帰って来るって、まひるのお母さんが嬉しそうに言ってたからさ」

「まだ、ちゃんと決めてないよ~
お母さん、せっかちなんだから」

すると、先輩が私の腕を掴んだ。

「もう帰っておいで…
今のまひるに、帰って来れない理由はないんだから」

私は肩をすくめて苦笑いをする。
私とミチャが離婚届を出したあの日以来、ミチャの話は誰もしたがらない。
私から話す事もなかったし、だから、なおさら周りもするはずがなかった。

「それで、今回は、東京にどれくらい居れるの?」

私はまた肩をすくめる。

「それが、そんなに居られないんだ。
三日後には帰る。
今、制作中の絵があって、それを描き終えないとマジでヤバイ事になるから…」

先輩と森魚は顔を見合わせてため息をつく。

「今夜の話は聞いてるよね?
ここにいる皆で、まひるのおめでとう会をするって話」

私はうんと頷いた。

「じゃ、その時ゆっくり話そう。
色々と、ね」

先輩と森魚はそう言うと、私の作品を観るためにギャラリーの方へ歩いて行った。

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