13 / 29
一章 旅を始める
決意
しおりを挟む血よりも濃い、そして途切れない絆と結束で永遠に保護しよう。
―――自分は、全ての白髪の者の守護者だ
ケイの中で、そういう自覚が生まれた。それは、後に連綿と続く王族の基礎となる考えになっていく。
傷ついた者だからこそ、分かる痛みがある。
真の絶望を知る者だからこそ、分かる希望がある。
愛を知らないからこそ、もらった時は何よりも嬉しい。
希望ばかりを見る者。
絶望だけを語る者。
そんな人種には決して分からない、分かることの出来ない想いを、彼らは持っている。
「・・・・・・アウラ、君を捨てるわけない。」
何故。
髪の色が、瞳が白いというだけで。
こんなにも酷い目に合わなければならないのか。
こんな幼気(いたいけ)な子供でさえ。
人間としての尊厳さえ守られず。
ケイも、アウラも、その他大勢の苦しんでいる者や、死んでいった者達も。
皆、等しく同じ時を生きている人だと言うのに。
「俺は、俺達だけの国を作る。差別のない国を作る。」
例えそれが、夢物語だと言われようとも。
関係ない。
誰も苦しまず、辛い想いをしなくていいように。
恒久的な平和を。希望を。明るい未来を。
民の誰もが、信じていられるように。
「もう我慢しなくていい。俺はお前達が笑っていられるように、全力を尽くす。」
―――陽の光を浴びて笑う権利は、全員に平等に与えられているはずだから。
この想いは、後に建国される国をたらしめる想いとなる。
そしてケイ本人がこの気持ちを持ち続けたからこそ、復讐という最も残忍な手段を用いながら、最も温かい国を作り上げたのだ。
「泣いていいよ・・・。」
静かな言葉がアウラの言葉に染み込む。やがて彼女は、声を出さずボロボロと涙を零し始めた。
「ケイ、おにいちゃん・・・つらかった、よぉ、こわか、ったよぉ・・・もっと、たくさんおは、なし、したいよ。もうおこられるのいやだよぉ・・・・・・。」
何故こんなにも涙が溢れてくるのか、アウラには分からなかった。
こんなに温かい感情は覚えたこともなく。
冷たい涙は流しても、こんなに安堵した気持ちで泣くこともなく。
それでもこの感情は、居心地がいい。
「大丈夫だよ。」
「うぇえ、ひっく・・・ケイおにいちゃ・・・こわかった・・・。」
今までの辛苦を心から流すように、アウラは泣き続けた。
ケイはその間、ずっとアウラを抱きしめていた。
―――お前、なんかカッコつけだな。
「うるせ。ムード壊すなよ。」
―――じゃあ俺も抱きしめてやるー。
えっ、と言う間もなく逞しい腕に抱えられた。ケイはともかくアウラは本当にびっくりしたようで、泣くのを止めていた。
「なんか、“かぞく”みたい。」
その言葉に、うっとりとした響きが少なからず混じっていたのをケイは気づいた。
だがあえて追求せず、そのままアウラが眠るまであやし続けた。
―――眠ったか?
「泣き疲れたみたいだな。」
―――そりゃあ、泣いたこともないような顔してあんなに泣いたら疲れるさ。
「・・・・・・。」
―――お前もだよ。
ぴくりと微かに肩が揺れた。きっとケイも気づいている。
今のラクラスの言葉で自分の心が確かに揺れたことを。
―――俺が未だに分からないことがある。人間は何故こうも我慢したがるんだろうってな。よく思う。
だけど・・・ようやく分かったよ。
実は、ラクラスは前々からケイのことを見ていた。
彼が陽の射さない地下牢に繋がれてから、赤子から少年、そして青年へと成長し、それと共に次第に目の光が消えていくのを黙って見ていた。
そして彼の心になんの彩も見えなくなったとき、遂にラクラスはケイの前に姿を現した。
その目を見て、消えていった感情を見て、初めてラクラスは人が頑張る訳を知った。
―――お前は俺に興味を持たせた数少ない人間なんだ。よろしく頼むぞ。
「知るか。」
そっけなく返事をしながらも、ケイの頬はゆるみ、顔はどこまでも優しい。
やがて二人は、互いの唇に触れるだけの口付けを交わした。
「白い人、一緒に闘いたい・・・。」
月光の中で無造作に屍の山を築きながら少女が道を行く。
側には付き従う絶世の美女。
新たな胎動が始まる。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる