この手に楽園を

蓮ゆうま

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一章 旅を始める

決意

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血よりも濃い、そして途切れない絆と結束で永遠に保護しよう。



―――自分は、全ての白髪の者の守護者だ



ケイの中で、そういう自覚が生まれた。それは、後に連綿と続く王族の基礎となる考えになっていく。

傷ついた者だからこそ、分かる痛みがある。
真の絶望を知る者だからこそ、分かる希望がある。
愛を知らないからこそ、もらった時は何よりも嬉しい。
希望ばかりを見る者。
絶望だけを語る者。
そんな人種には決して分からない、分かることの出来ない想いを、彼らは持っている。

「・・・・・・アウラ、君を捨てるわけない。」

何故。
髪の色が、瞳が白いというだけで。
こんなにも酷い目に合わなければならないのか。
こんな幼気(いたいけ)な子供でさえ。
人間としての尊厳さえ守られず。
ケイも、アウラも、その他大勢の苦しんでいる者や、死んでいった者達も。
皆、等しく同じ時を生きている人だと言うのに。

「俺は、俺達だけの国を作る。差別のない国を作る。」

例えそれが、夢物語だと言われようとも。
関係ない。
誰も苦しまず、辛い想いをしなくていいように。
恒久的な平和を。希望を。明るい未来を。
民の誰もが、信じていられるように。

「もう我慢しなくていい。俺はお前達が笑っていられるように、全力を尽くす。」



―――陽の光を浴びて笑う権利は、全員に平等に与えられているはずだから。



この想いは、後に建国される国をたらしめる想いとなる。
そしてケイ本人がこの気持ちを持ち続けたからこそ、復讐という最も残忍な手段を用いながら、最も温かい国を作り上げたのだ。

「泣いていいよ・・・。」

静かな言葉がアウラの言葉に染み込む。やがて彼女は、声を出さずボロボロと涙を零し始めた。

「ケイ、おにいちゃん・・・つらかった、よぉ、こわか、ったよぉ・・・もっと、たくさんおは、なし、したいよ。もうおこられるのいやだよぉ・・・・・・。」

何故こんなにも涙が溢れてくるのか、アウラには分からなかった。
こんなに温かい感情は覚えたこともなく。
冷たい涙は流しても、こんなに安堵した気持ちで泣くこともなく。
それでもこの感情は、居心地がいい。

「大丈夫だよ。」

「うぇえ、ひっく・・・ケイおにいちゃ・・・こわかった・・・。」

今までの辛苦を心から流すように、アウラは泣き続けた。
ケイはその間、ずっとアウラを抱きしめていた。

―――お前、なんかカッコつけだな。

「うるせ。ムード壊すなよ。」

―――じゃあ俺も抱きしめてやるー。

えっ、と言う間もなく逞しい腕に抱えられた。ケイはともかくアウラは本当にびっくりしたようで、泣くのを止めていた。

「なんか、“かぞく”みたい。」

その言葉に、うっとりとした響きが少なからず混じっていたのをケイは気づいた。
だがあえて追求せず、そのままアウラが眠るまであやし続けた。

―――眠ったか?

「泣き疲れたみたいだな。」

―――そりゃあ、泣いたこともないような顔してあんなに泣いたら疲れるさ。

「・・・・・・。」

―――お前もだよ。

ぴくりと微かに肩が揺れた。きっとケイも気づいている。
今のラクラスの言葉で自分の心が確かに揺れたことを。

―――俺が未だに分からないことがある。人間は何故こうも我慢したがるんだろうってな。よく思う。
だけど・・・ようやく分かったよ。

実は、ラクラスは前々からケイのことを見ていた。
彼が陽の射さない地下牢に繋がれてから、赤子から少年、そして青年へと成長し、それと共に次第に目の光が消えていくのを黙って見ていた。
そして彼の心になんの彩も見えなくなったとき、遂にラクラスはケイの前に姿を現した。
その目を見て、消えていった感情を見て、初めてラクラスは人が頑張る訳を知った。

―――お前は俺に興味を持たせた数少ない人間なんだ。よろしく頼むぞ。

「知るか。」

そっけなく返事をしながらも、ケイの頬はゆるみ、顔はどこまでも優しい。
やがて二人は、互いの唇に触れるだけの口付けを交わした。








「白い人、一緒に闘いたい・・・。」

月光の中で無造作に屍の山を築きながら少女が道を行く。
側には付き従う絶世の美女。
新たな胎動が始まる。
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