この手に楽園を

蓮ゆうま

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一章 旅を始める

皆殺し8(村の滅亡)

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「大変だ、村長が死んでる!」

味わったことの無い恐怖で蜂の巣をつついたような騒ぎになっている村に、更なる悲報がもたらされる。

「なんだって!?」

「あの人、高位の冒険者だろ!なんでそんな人が死んでるんだよ!」

「俺だって分かんねえよ!」

村に広がるパニックは止められない。
彼らはどう足掻こうと一介の村人であり、農夫であった。魔物相手に命のやり取りをしたことなどほとんど無い。おまけに大きな宿場町に近いため、あまり魔物が現れないという、(今となっては)弱点もあった。

「ひでえ・・・!」

村長の家に足を踏み入れた彼らはその凄惨な、いや、凄惨すぎる光景に思わず足を止めた。
地中から生えた黒縄に手足を絡め取られ、そのままそれらは折られている。苦悶の形相が刻まれた頭は切り落とされていた。
戦闘経験がない彼らにも一目で分かった。
これは、ガイルと何者かが互角に闘ったものではなく、一方的に蹂躙されたものであると。

「・・・・・・あの人も、負けるのか。」

誰かがほんの小さな声で呟いたその一言は、村の男達全員の気持ちを代弁していたに違いない。
あの人は冒険者だったから。
とても強いから。
きっと、恐ろしい魔物が来ても守ってくれる・・・・・・。
今となっては意味の無い期待は絶望に変わり、暗鬱(あんうつ)とした空気が村を支配した。

「・・・・・・・・・。」

弱い者は、強い者に屠られる。
それは絶対に覆すことの出来ない、自然の不可侵の法則だ。

その時。

何人かの体が傾いだ。

「お、おい!大丈夫か!?」

慌てて駆け寄った仲間達はその場から動けない。何故なら、彼らは眠るように死んでいたから。
恐怖が、彼らをその場に縫い止めて離さなかった。

「なん、で、死んでるん、だ・・・?」

「そんなの、心臓を差したからに決まってんだろ?」

侮蔑の声が上から降ってくる。引きずられるように上を見た男達は、体の芯から震えが這い上がってくるのを自覚した。
恐ろしい。
畏ろしい。
今まで感じたことの無い種類の恐怖が、身体の動きを止めている。
ケイがふわふわと浮きながら、空中に腰かけていた。

「お、お前は・・・!」

「そう、君達が閉じ込めてた忌み子だよ。今の気分はどうだ?」

冷ややかな光を宿した瞳が男達を射抜く。

「忌み子め、なんてことをしてくれたんだよ!」

「俺の女房を返せよ!」

「子供を返せ!許嫁(いいなずけ)がいたんだ!お前なんか生きてなくてもいいんだ、俺の娘の方が大事だよ!命なんて未来ある者のためにあるものだろう!」

ケイの顔が刹那歪んだ。
薄氷を張って感情を隠したその顔が、次の瞬間パリンと割れた。

「お前らの方が大事?」

その青年の怒りに気づいた時には、もう、遅い。

「じゃあ、国に多大な貢献をした老人の身代わりに若い娘が死んだ時、お前らは老人を罵るのか?お前が死ねば良かったのに、って言うのか?言わないだろ!?」

冷静に鑑みれば、彼らの意見は、ある意味正しい。
それでも。だとしても。
ケイは、それを差別に使うのが許せなかったのだ。

「可哀想だから、一思いに殺してあげるよ。・・・・・・死んで?」

狂った笑みをその唇に刻んだケイが大きく目を見開いた。蛇に睨まれた蛙のように身動き一つ取れなくなった男達の体を、風に紛れた鎌鼬が切り裂いていく。
風が吹く度に、花びらがひとひら舞うようにいともあっけなく首が舞った。
その不可視の鎌は、さながら命を刈り取る死神の鎌。
一人、また一人と。
死んでいく、死んでいく、死んでいく。
全員、鎖の外れぬ牢獄に囚われる。

「・・・・・・ふう。」

全てが終わったあと、ケイは静かに息をついて吐息を零した。全身の凝った筋を揉みほぐす。
人を殺すことにはなんの感情も抱かなかったが、力を出しすぎないように少々神経をすり減らした。それと同時に、魔力もかなり消費した。 

―――お疲れのようだな。

「当たり前だ。一夜で村全滅なんて聞いたことない。あー、もう疲れた。」

ケイは当然のように、広げられたラクラスの腕の中に身体を預ける。
ケイを大事そうに受け止めて抱き直したその時、何かに気がついたラクラスが喜びの声を上げた。

―――ユスリじゃないか。

―――久しぶりだね、ラクラス。

そこには、幼女と美しい女性がいた。
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